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奇病患者が送る一ヶ月 一日目
ッスーー…マジで遅くてごめん
「よぉし!今日も一日頑張っていこうか‼」
俺は医務室で休む同僚に向けて言う。
今日は気持ちの良い快晴の日。気分を上げていかなければ!
「流石…どことなくいつもより元気っすね…。」
ボサボサになっている短い黒髪を小さく結んでいる猫背の青年、
菱沼が呆れたように言った。
「応よ!んな事よりもさぁ…、」
「…?ッグエッッ‼‼」
俺は彼の体を無理やり反対に曲げ、立ったままエビ反りのようなものをさせる。
「この背中、どうにかなんねぇの?」
「あだだだだ、ギブギブギブッ‼たす、タスケテ‼‼」
「アハハ!菱沼さんすごいよ!頑張れ!猫背治るよ‼」
薄い茶髪の髪をポニーテールに束ねている女性が面白そうに言う。
「お、シエル!晃君どうだった?」
「あー、立派なおじさん構文で歓迎してくれたよ。」
「そっか!元気そうで良かった。」
「元気の基準がおかs、痛い痛い痛い‼」
その時、ビーーーと言うけたたましい音が院内に鳴り響く。
この音は患者が緊急時の際に患者自らが鳴らす音。
「どこで鳴った⁉」
「えっと、十四号室…春日居さんの所‼」
「マジかよッ‼おっけぇー!今行ってくる‼」
俺は医務室を後にして、十四号室に向かった。
「昨日の子、治ったからか、元気っすよね。院長。| 《はぁ…疲れた…。》」
「だね。にしても不自然な治り方だったけど~。」
「…あの人の考えてる事はいつまで経っても分からないっす。」
「うん、変な人だもんね。」
「そうっすね。」
---
「春日居さんッ!大丈夫か‼」
勢い良く扉を開ける。
そこにはいつも通りの笑顔を見せて、椅子に座っている高身長の青年がいた。
「いつも通りじゃんっ‼‼」
いつも通りの姿に、思わずツッコんでしまう。
いや、いつも通りが一番ありがたいんだけどさ。
「やぁ、暇すぎて鳴らしちゃった。」
うっかり☆と言わんばかりのトーンで彼は言った。
「そ…そうか…。」
それは緊急用だから出来れば暇つぶしに押さないでほしい…
そんな気持ちを抑えながら俺は言う。
「ハハハ、君が困った顔をしてる姿を見るのは久しぶりだね。」
「楽しまないでくれ…。はぁぁ…。
あ、今日は晴れてるし、ベランダまで連れてってやるよ。」
俺がそう言いそこにあった車椅子を取り出すと、彼は少しむすっとしていた。
「私だって自分で歩く事ができるんだ。ほら、見てまえ。」
…見たまえでは?というツッコミは敢えて放棄しよう。
彼はそう言うと、酔ったような心もとない足取りで俺の目の前まで歩いてくる。
ドヤ顔を見せて、
「ほら、行けた。」
と彼は言う。
「いや、危ねぇよ。ほら座った座った。」
「ハハハ、残念だ。君も車椅子の扱いに慣れたね。」
春日居さんはそう言いながら、大人しく車椅子に座ってくれた。
この人はずっと前…いや、建立当初からいた人だ。
要するにこの人は、俺が不慣れだった当初の姿を知っている事となる。
当初からいる人は少なくはないが、
こうやって改めて言われるとなんとも気恥ずかしい。
それ以上は互いに何も言わず、
俺はただ日光がよく当たるベランダまで、彼が座る車椅子を運んだ。
彼の奇病は|先天性《せんてんしょう》|表《ひょう》|皮下《ひか》|葉緑体《ようりょくたい》症。別名、緑化症候群。
簡単に言ってしまえば、植物のように光合成でしか栄養が取れないのだ。
彼の腕に見える渦を巻いた、いくつものタトゥーのようなもの…それが彼の葉緑体。
致死性はあまり無いが、俺達が食べるような食事が食べる事が出来なかったりと、少し不便。
「数時間経ったらまた来る、何かあったら呼んでくれ。
それまで、この本でも読んどけよ。じゃ!」
「あぁ、分かったよ。」
「げ、フリガナがふられてない…。」
---
「おーっす!ただいまぁー!」
俺は大量の資料を今日中にまとめないといけないため、また医務室に戻って来た。
医務室の中には先程のシエルの姿はなく、菱沼一人だけだった。
「あっ‼春日居さんはどうだったっすか?」
彼は心配そうに眉を八の字にして俺に問う。
「大丈夫だったよ。暇だったんだってよ。」
「そうっすか…、心臓に悪いっす…。」
今日はまだマシな方だ。
何せ菱沼が焦って発狂どころか大量の包帯を持ってこなかったんだもの。
「あいつに漢字練習帳と、計算ワーク、
あとひらがな練習帳も買ってやんねぇとな…。」
「予算足りるんすか?」
「いーや、予算も余裕もギリギリ。」
「はぁ…。いいっすか?
ジブン達はこれから先、支え合って生きないといけないんす。
そのためには節約をしないとしんどくなるって、何度言えば分かるんすか。」
「…節約、ねぇ…。」
俺はしゃがみ込み、すぐ目の前にあるゴミ箱の中に入ってある、
フエラムネの大量のゴミをじーっくりと見つめる。
そんな俺に菱沼は気付いたのか、彼は静かにゴミ箱に蓋をした。
俺は流石に菱沼の方を見るが、明らかに目を逸らされているせいで、彼と目が合わない。
沈黙がしばらく続く。
「そういや、シエルは?」
「別館っす。」
「じゃあ黶伊は?」
「アイツんとこっす。」
「翠のとこか…。そんじゃあ綝は?」
「寝てるっす。」
「はぁぁぁぁぁ…。」
思わずこぼれ出る灰色混じりのため息。人手不足も勘弁してくれぇ…。
今日は徹夜が確定したようなものだ。山のようにある資料が、一日で終わる訳がない。
何日も十分に寝れていないのに。
「今日も一日頑張っていくんじゃなかったんすか?」
「そうなんだよなぁ…、頑張んないといけねぇ…。」
俺がそう言った瞬間、ピンポーンといった明るい音が鳴った。
この音は先程とは違い、通院の患者がこの病院に来た事を指す。
しかし、普段よりも明るい音だったので、多分初めましての患者だろう。
「よし、じゃあ、あとは頼んだ!」
「え、ちょ、待つっす!」
俺を引き留めようとする彼の言葉を気にも留めず、
俺は次に、患者用の医務室へ向かった。
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患者用の医務室では一人の女性が静かに座っていた。
「すみません、お待たせしてしまって…。
えー、俺がここで院長をやっている灰山です。どうぞよろしく。」
俺は慣れない下手くそな敬語で軽く挨拶を済ませる。
ここは奇病病院。
人々を脅かす奇妙な病気である“奇病”というものを治す事を目的とした病院だ。
やることは普通の病院と同じで、症状を訴える人に治療薬を出したりする。
俺が普通の病院を見様見真似で試行錯誤をしながらこの病院をつくった。
しかし、奇病というものは様々で、中には危なっかしい奇病もある。
そんな奇病を持っている人には、この病院で入院をしてもらうのだ。
中には奇病を気味悪がられて行き場の失った人達を保護する事だってある。
ある程度大まかに言ってしまえば、
患者のためなら何でもするような、そんな病院だ。
さっきの女性に薬を渡すと、彼女は深々と頭を下げて帰って行った。
まぁ通院の場合はあぁやって、ある程度症状について聞いて薬を渡す事が多い。
ある程度時間が経ってから、俺はまた医務室に向かった。
菱沼、どれぐらい終わらしてくれたかなぁ…。
半分以上終わってたら…、褒めてやろう!
資料をまとめた後に、春日居さんを部屋に戻さないとなぁ。
あと、花壇の水やりもしないと。
で、もしもまだ綝が寝てたら起こしに行って…、それで…、
うん、やることがまだまだ沢山だ!
今日も忙しいぞー‼
██████、
あと29日。
0話から想像もつかないぐらい明るい話でしたね笑
まぁ仕方がない、シリーズの場合、自分の書き方ってこんな感じだから
え?1話の投稿が遅いって?フフフ…
正論はやめてくれ、俺傷ついちゃうお♡((キッッッッ
そんなこんなで、末永くよろしくお願いしまぁす
2話の投稿も、凄く遅いって思ってもらえると…笑