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〖揺らめく炎〗
※本作品には喫煙の描写が含まれます。
語り手:柳田善
わりとやりたい放題な従業員を見ながら、マネージャーの電話を取る日々。
人が叱咤されている中、笑わせようとする従業員には流石に注意するが、怪談だのゲームだの...サボり過ぎじゃなかろうか?
●(登場人物紹介で抜かされた)空知翔
23歳、男性。彼が凛々しい顔に髪を白く染めていることは忘れていないだろうか?
だからと言って、彼に彼氏・彼女ができるわけではない。
最近の趣味はクレー射撃。アヒル嫌い。
(※空知翔:抜かされたの二回目なんだけど...?)
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桜の嵐、とでも言うべきか。目の前で紙同然に斬られていく商品や備品、斬られていく最中に舞う桜の花びらを見ながら、なんとなく夏の暑さが緩和されていくような感覚に陥る。
ただ、銃弾や刃物が効かないのは些かどうだろうか。
「...これ...水とかってぶつけたらどうなるのかな?」
不意に空知が口を開きました。その瞳はキラキラと輝いて子供らしさがあります。大人なのに。
「...蒸発...とか?...するんじゃないですか...?」
一応、台風は暖かい空気を含んだ水蒸気ですから、蒸発するか飛ばされるでしょうね。
「一護君、大学でどこ取ってたの?」
電話を終えた柳田が考えていた一護に問いかける。
うっすらと苦悶の表情を浮かべながら一護は口を開いた。
「...物理と、生物を......化学は苦手で...」
「え、物理はできたの?」
「はい、まぁ...変ですよね」
「変というか、凄いというか...経済系だったよね?」
「いえ、美術系です。経済は従兄のですね」
「あ~…なるほど...」
納得するような声を出して前を向き、「それ強風で例えたら導きやすいかもね」とだけ答えた。
目を輝かせて返答を待っていた空知はいつの間にか、近くのコーナーから複数の土嚢袋を取り出して壁のようなものを作っている。
「...空知先輩、それって意味あります?」
「多少の防止にはなるんじゃない?」
「さっき投げたもの、見てなかったんで__す___」
言い終わる前に土嚢袋の壁が壊された。空知の顔に土が飛んでくるのと同時に一護の真面に桜の嵐があった。あまりに唐突のことにただ、呆然と立ち尽くした。
その中でしっかりと嵐の目が確認できた。淡い桃色の瞳に桃色のメッシュの入った白髪の人物が手に持った細い刀身の刀を振り回す姿が明確に見えた。
その姿を瞳に映しているのが誰かの手によって遮られた。
誰かの手は顔から腰に回され、バランスを崩したのか一護が下になるように倒れる。
直後、先程まで立っていた所の床に大きな斬撃が入った。
「...ひぇ......」
「わ~ぉ、暴力的~...」
土の触れていない手を一護に差し出して、掴んでから一気に引いて走る。
柳田はそのまま置き去りですが、多分逃げれるでしょう。
「君さぁ!危ないって分かってんなら、逃げなよ!!!」
「動かなかったんです!!」
謎の疾走感を醸し出しながら空知と一護が懸命に走り、その後を花の嵐が豪快に物を斬りながら追っていきます。
「やっぱり回転式自動ハサミじゃないか!」
ハサミじゃないので違います。
「そんなこと、どうでもいいんですよ!追われてるじゃないですか!」
「斬り刻まれて肉塊の破片になるよりはいいだろ!」
「グロい!」
ならないので大丈夫です。刀が骨を通るのは相当切れ味がないと通りませんから。
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疾走感のある走りを見せた二人を追う花の嵐を見ながら柳田は落ちた桜の花びらを一枚拾う。
特にこれと言って特徴のない平凡な淡い桃色に白い桜の花びら。しっとりとしていて、多少濡れていたことが分かる。
その花びらを見る先にお菓子コーナーが瞳に映りました。
「......毎日、森を焼こうぜ...的な?」
一人で何言ってんの?
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キッズコーナーを速いスピードで距離を詰める花の嵐。桜の花びらが顔を掠めるように舞っていきます。走り抜ける廊下の先に終の先が見えました。
大きく方向転換をして、キッズコーナーに設置されたボールプールに飛び込み左右に別れた二人で花の嵐を挟んでボールを投げ続けました。
ボールを投げようと斬られるのは当たり前で、花びらと共に刻まれたボールの破片が舞っていきます。
しかし、下手でも数打ちゃ当たるとでも言うのか一つのボールが嵐の目の人物の手に当たって刀が手から離れました。
すかさず空知が刀を掴もうとして、ゆっくりと嵐が消え去り先程の淡い桃色の瞳に桃色のメッシュの入った白髪の人物が見えました。
ただ、刀を取り上げるには至らず速い斬りつけと風を切る威力がまた嵐と化しました。
「刀振り回してるだけあって力強...!」
剣道やってる方だと手にたこが出来ていたりしますから、相当強く握ってるんでしょうね。
急いでボールプールから出ようとしますが、足がとられて思ったより早めに動けません。
ボールに桜の花びらがゆっくりと積もっていきました。
斬撃を目で見て避けながら、後退しつつまたボールを投げようとした瞬間、やけに激しく燃える小さな何かが花の嵐の中へ入りました。
それが舞い散る桜の花びらに引火して二酸化炭素を発生させ、ゆっくりとボールプールのボールを焦がしながら灰にして元々、ボールプールだった場所に一人の人物が一酸化中毒か何かでうつ伏せで倒れていました。小さな燃焼物を投げた方向を一護は見ました。
「|立花心寧《たちばなここね》...能力は|桜花連斬《さくらからんざん》...」
煙草を吸いながらライターを持った柳田がそこにいました。
「バイトリーダー!」
一護が声をかけると柳田が口に咥えた煙草から出る煙を払って、咥えた煙草の火を手で潰しました。
そんなことをしても副流煙は残るんですけどね。
「さっきの投げたのはなんですか?」
煙草は気にせず一護が問いかけました。
「スナック菓子」
煙草の後始末をしながら柳田が答えました。
空知はちょうど倒れた消費者を調べていますが、大丈夫でしょう。
「スナック菓子...ってライターで火を着けたんですか?」
「うん。油があるスナック菓子は結構燃えやすいから着火材になるんだよ。ライターを投げても良かっけど、桜の花びらが完全に燃える可能性は少し怖いでしょ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだよ...というか、キャンプとかが趣味な人なら分かるんじゃないかな」
柳田が掌にあるライターをじっと見つめて彩り鮮やかなキッズコーナーを見ました。
そして、少し経った頃に立花を介抱する空知が身体を担いで先に歩いていきました。
それに続いて一護と柳田も足を進めます。
柳田のかなり年季の入った金色の高級感があり、猫のマークの入ったライターのオイルは残り少なくなっていました。