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Hortus Rosarum 1
英西ですがいちゃついてはいません
今回はイスラム王朝期スペインが出てきます
イスラム圏からは当時のスペインは「アル・アンダルス」と呼ばれていたみたいなのでアントーニョではなくアンダルスにしてます。
それでもよい方はどうぞ
グラナダのアルハンブラ宮殿。
イスラム王朝期のスペインのアラビアの王たちは、ヘネラリーフェと呼ばれるたいそう美しい薔薇園を離宮に持っていたとされている。
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アーサーは目の前の光景に息を呑んだ。
細い噴水が美しいアーチを描き、所狭しと白薔薇と赤薔薇が植えられ大切に管理されているのか大輪を咲かせている様子は、何処か浮世離れした美しさを感じさせる。
1輪1輪の薔薇が月明かりに照らされ濃密で重厚な匂いを放っており、白樺の匂いも相まって何処か東方の砂漠を感じさせた。
自国の灰色の城と比べて、それはいかにもアーサーにとっては魔法のような光景だった。
「ようこそ北のお方、薔薇はお好きで?」
薔薇園の美しさに気を取られて固まっていると、不意に背後から声がかかった。
慌てて剣に手をかけて振り返ると、白いカフタンをまとった同じ年頃ぐらいの少年が、月明かりを背景にして立っていた。
「俺、アンダルス言うねん。よろしゅうに」
聞いたことのない異国訛り。
絹のカフタンが擦れる音を立てる。月夜にぼんやり現れた彼は、まるで砂漠に現れる幻影のようでもあった。
カフタンが彼の顔部分まですっぽり覆い隠し、アーサーには口元しか分からない。
警戒して剣に手をかけたまま、何も話さないアーサーをみて、アンダルスと名乗った少年はおもむろに近くの薔薇を手で折った。
「この薔薇はムスクローズって呼ばれとんねん。貴方の国では何と言うんやろか、、、はるばるようお越しくださった。」
白樺とムスクローズの香りが一層強まった。
アンダルスが手で折った白薔薇を、アーサーの胸元に刺す。
至近距離でカフタンの下から覗いた顔は、まるで砂漠の月と呼応するかのような静けさを称えていた。
いかにも異国風で堀が深く、東方の風を感じさせる顔。
褐色の肌と白いカフタンと柔らかい月光の組み合わせは、異国の絵画のように美しかった。
長めのまつ毛に隠された瞳と目があった。
彼の琥珀の瞳に絡め取られるように動けなくなる。
その琥珀の瞳には、数千年の信仰と受け継がれてきた知恵に裏打ちされた、恐ろしいまでの静寂。それでいて深い慈愛の瞳。
鼓動が無意識に高鳴るのを感じる。
アンダルスの敵対的には見えない絶接待に一息ついたが、身体は警戒を緩めず剣から手を離さない。
見かねたアンダルスが
「あんな、客人さん。ここは自分が過ごしてきた戦場とちゃうねん。神様の許した、休息の場所や」
アーサーは言葉を返さずに一刻も早くこの庭園から出ようと目で逃げ道を探した。
そんなアーサーの様子をアンダルスは感じ取ったのか、
「この薔薇の美しさは今の自分には毒かもしれんなぁ、、、でもいつか海を越え、世界を染め上げた時には、きっとこの薔薇の香りを、一生追い求めるようなるんやで」
薔薇のかぐわしい薫りをまといながらアンダルスは微笑んだ。
その微笑み方は彼の背後から照らす朝の光も相まって一層妖艶に、神々しくに写る。
思わず軽く息を吸い込んだアーサーだったが、空が白み始めるのを見て弾かれたように背を翻した。