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針と糸で運命を縫う令嬢
――裁縫令嬢エレノア・ベルフィンの物語――
目を覚ました瞬間、エレノアは豪華な天蓋付きのベッドに寝ていた。
天井には繊細な金の装飾、窓から差し込む朝の光は、まるで絵画のように美しい。
でも彼女は知っていた。これは夢ではない。
彼女は、乙女ゲームの世界に転生してしまったのだ。
前世では、裁縫が大好きな女子高生だった。
放課後は手芸部でドレスを縫い、休日は布屋を巡るのが楽しみ。
そんな彼女が、交通事故で命を落とし、目覚めた先は――乙女ゲーム『薔薇の誓い』の世界。
しかも、転生したのは“悪役令嬢”エレノア・ベルフィン。
「えっ、ヒロインをいじめて破滅する役!?いやいや、そんなの絶対イヤ!」
エレノアはすぐに状況を理解した。
このままゲーム通りに進めば、彼女はヒロインを敵に回し、攻略対象たちからも嫌われ、最後には国外追放される運命。
でも、彼女には前世の記憶と、裁縫の腕が残っていた。
「なら、運命を縫い直すしかない…!」
彼女は決意した。 “悪役令嬢”として振る舞いながら、誰も傷つけず、むしろみんなを幸せに導く。
仮面をかぶった優しさ――それが、彼女の新しい生き方だった。
初めての社交界の日。 エレノアは冷たい微笑みを浮かべながら、ヒロインのリリアに声をかける。
「そのドレス、地味すぎるわ。もっと華やかな色を選びなさい」
周囲はざわつく。 「エレノア様、またヒロインを…」
でもその夜、リリアの部屋には、エレノアがこっそり作った美しい水色のドレスが届けられていた。
「あなたには、空のような色が似合うわ」――手紙には、そう書かれていた。
リリアは驚きながらも、そのドレスを着て舞踏会に出席。
その姿はまるで妖精のようで、誰もが息を呑んだ。
「このデザイン…まるで魔法みたい!」
リリアはエレノアにそっと近づき、言った。
「エレノア様…ありがとうございます。私、あなたのこと…少し怖かったけど、今は違います」
エレノアは微笑む。
「勘違いされるのは慣れてるわ。でも、あなたが笑ってくれたなら、それでいいの」
その言葉に、リリアは涙ぐんだ。
そして、ある日。 攻略対象の王子レオニス・ヴァン=クロードが、エレノアの裁縫を偶然目撃する。
「君は…悪役令嬢じゃない。誰かのために縫っている」
彼は興味を持ち、エレノアにドレス制作を依頼する。 「僕の妹の誕生日に、特別なドレスを贈りたい」
エレノアは心を込めて縫い上げる。
そのドレスは王宮で絶賛され、彼女の名は広まる。
「このドレスを作ったのは…エレノア・ベルフィン嬢です」
ざわめく貴族たち。
「えっ、あの悪役令嬢が…?」
「信じられない…でも、なんて美しい作品…!」
エレノアは静かに言う。 「私は、針と糸で誰かの心を縫っているだけよ」
やがて、ゲームの“破滅イベント”が近づく。 ヒロインと王子が恋に落ち、エレノアが嫉妬して暴走する――そんな展開が待っているはずだった。
でも、エレノアは逃げなかった。 「私は、針と糸でこの運命を縫い直す」
彼女は舞踏会で、自作のドレスを着て登場。 その美しさに、誰もが息を呑む。
「私は悪役令嬢じゃない。私は、私の物語を縫ってきたの」
レオニスは彼女の手を取り、言う。 「これからは、君の隣でその物語を見ていたい」
エレノアは微笑む。 「じゃあ、あなたの衣装も縫ってあげる。破れたら困るでしょ?」
その夜、星空の下でふたりは静かに手を繋いだ。
針と糸で紡がれた運命は、優しく、確かに結ばれていた。
初めましてありす🐰♣️です
初めての小説ですが楽しく読んでください