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Ⅰ《宝石竜》
「どうも、私が商人のラム・クライメットです」
小綺麗に頭を下げる私の目の前で、青いベレー帽を被った女性が財布の紐を緩めている。ちょろいものだ。雑貨を並べただけの荷車と、耳障りのいい言葉さえあれば、人間なんて簡単に懐に入ってくる。
「おぉ。貴女、お目が高い! そちらの商品はサファイアの宝石竜から取れた鱗を加工しております。特別に、今日のところは少しお安くしておきますよ」
大人しい女性の頬がぱっと明るくなり、ぼさぼさの黒髪を軽く掻き上げながら嬉しそうに声を弾ませた。
「買います!」
私は手際よく上品な小箱を取り出し、〈サファイア〉のピアスを布に包んで収める。
「素敵な方に選んでいただけて、この鱗もさぞや喜んでおりますよ」
その宝石は、まるで夜空を閉じ込めたかのように妖しく、そして深く青く輝いていた。女性は満足げにうっとりとそれを見つめ、財布から銀貨を何枚か、小気味いい音を立てて木製のカウンターに置いた。
「これで足りますか?」
受け取った硬貨の重みを手の平で確かめながら、私は最上級の会釈を送る。今日の売り上げは上々。さて、この次に来る客は、どんなカモ……いや、上客でしょうか。
ふと、雑踏の喧騒の中に、妙に慌ただしい足音が混じっていることに気づいた。カツカツと石畳を急ぎ足で鳴らす、白衣を翻した人物。見覚えのある顔だ。今の今まで私が売りさばいていた方向から、息を切らせてこちらに向かってくる。
その小柄な男性は私の荷車の前で足を止めると、息を整える間もなく叫んだ。
「皆さん伏せて! 宝石竜がすぐそこまで来てます!」
すぐ裏手の通りから地響きのような轟音と、人々の悲鳴が巻き起こる。ガシャアッ! と屋台がひっくり返る音が響き渡り、砂埃とともに視界の端を鉱物が横切った。
眩しいほどの煌めきが辺りを照らす。見上げれば、鱗の一枚一枚が宝石のように輝く獣が、〈狩人の街〉を我が物顔で闊歩している。……間違いない。あれは中型の宝石竜そのものだ。
中型とは言っても、その全長は約四メートル。周囲の人間が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う中、私たち三人はむしろ目を細めて竜を観察した。
美しい。淡い紫と緑のグラデーションを描く結晶の翼。神々の宝飾品が零れ落ちて命を得た姿だと言い伝えられるだけあって、どこか芸術品のような気高さを漂わせている。