公開中
雫針 #2
(…たくっ)
東谷はその晩、机に伏した。
時計が午後10時を指しても寝る気にはなれない。かと言って、何かする気分でもない。
考えることと言ったら、美代子のことばかりだった。
ガチャっ
「お兄ちゃん、もう寝なよ。」
ドアを開けて入ってきたのは、東谷の妹さつきである。
「おまえこそ寝ろ。」
「お兄ちゃんこそ。どうせ美代子お姉ちゃんの事考えてるんでしょ」
「なっ…」
東谷は瞬息で振り返った。
さつきのにんまりとした笑みに、ムッとする。
そんな事は気にも止めず、さつきは笑みを崩さずに言った。
「ねえ、知ってる?」
「なんだよ」
「来月の14日、有本如月のレコードの発売日なのよ」
「だから?」
「わからないの?来月の19日は美代子お姉ちゃんの誕生日でしょ」
ハッと、我に帰った東谷は目を輝かせた。
さつきと手を取り合い、
「誕生日プレゼントに如月のレコードを贈ればいいんだ!」
と歓喜の叫びをあげる。
そしてもう一つ、こうも思った。
(あの悠二とかいう奴に負けてたまるか…!)
東谷は知っている。美代子が悠二に想いを寄せている事を。
昼間の、赤く笑う表情は、悠二に会えた喜びだろう。
そのせいだ、今こんな気持ちなのは。
「言っておくけど、私だって美代子お姉ちゃんがほんとのお姉ちゃんになるのは嬉しいのよ」
「お姉ちゃんって、結婚まではしねえよ」
「ええっ、結婚すればいいのに。男らしくプロポーズしなさいよ」
軽く方をつつかれる。
プロポーズだってしたくないわけじゃないが、物事には過程というものがある。
「わぁった。如月を買って、渡す。それで十分だろ」
「そうね、じゃ、おやすみ」
東谷に夜は長く続いた