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第22話 忘却シンドローム
※超長いです。
……|これからも《**・・・・・**》?
って感じで、みんなの頭に?が浮かんだのが見えた気がする。
あたし、早速トンデモ発言かな。
でもさ。どうしても、言いたかったんだよ。あたし、今まで散々みんなにお世話になってきたんだから。
キングがポシェットの中で「よくやった」って言ってる。
「明里さんありがとうございましたー。みなさん、明里さんと仲良くしてくださいね。席はあそこです」
先生が指差した席は、あたしのために用意されたであろう教室の窓際の角隅の席。
隣は久遠、前は瑠璃乃。
サイコーじゃん!
あたしが席に着くと、久遠があたしを見た。ぎゅっと眉をしかめてる。変なこと言うなよってことか。
瑠璃乃は相変わらず、俯いて本を読んでる。
流石に興味ゼロパーセントのその態度は傷つくけど、絶対、あたしのこと好きになってもらうからね!
決意を胸に、あたしは背負っていたリュックを下ろす。
朝のHRが始まり、終わり、先生が出ていくと、途端に教室がざわざわし始めた。
なんかみんな、遠巻きにあたしを見てる感じ……。
ソウデスヨネ、ハナシカケヅライデスヨネ。アハハハハ。
転校生って、席についた瞬間にみんなに取り巻かれるイメージだったんだけどな……。
まあ、あたしは色々みんなにとって意味不明のことばっかりしてるし自業自得かな。悲しいけど。
あたしは久遠と顔を見合わせて苦笑い。
するとみんなは「ほらやっぱ影宮と知り合いなんじゃん!」とコソコソ話し始める。
埒が開かないなあ……。
とりあえずリュックの中身の教科書を机の中に詰め込んでいると、場違いに明るい、ちょっと間延びした声がした。
「ねーねー、ハルちゃんー?」
頬杖をついてあたしを見てるのは、斜め前の席のツインテールの女の子。
「うち、|小瀬川《こせがわ》りのんって言うんだー! りのんって呼んでね! よろしくー!」
ええ、名乗らなくても、あなたのことはしっかり知ってます。
小瀬川りのん。あたしは忘れられる前は呼び捨てでりのんって呼んでた。明るくてサッパリしててコミュニュケーション能力抜群の彼女はクラスのムードメーカーで、いつでも誰かと楽しそうに喋ってる。
「よろしくね」
あたしは彼女が差し出した手をぎゅっと握った。
よろしく、りのん。これからも。
そして、好奇心旺盛でもあるりのんは、無邪気な瞳で問う。
「なんかさー、うち見てないからわかんないんだけどー、ハルちゃん一回クラスに乱入したって聞いたんだけどほんとー?」
痛いところだけど、あたしは寮で久遠と苦し紛れの言い訳をばっちり考えてきた。
「アハハハハハ……。いやー転校前に一回学校に来て先生とかと話したんだけどトイレに行こうとしたら迷っちゃってさぁ……」
みんなは顔を見合わせる。
うん。苦し紛れにも程があるな。
いくら馬鹿でもトイレに行きたいのに人がいる教室に乱入して「瑠璃乃ぉ!」なんて叫ぶ奴がいるわけない、うん。
だけど単純?っぽいりのんにはなんとか通用したっぽい(多分)。
「あーそうなんだぁー! ドンマイドンマイ! うちの学校なんか複雑だもんねー! そのうち慣れるよ!」
「そ、そう? あ、ありがと?」
うちの学校って複雑でしたっけ……。普通な気が……。
とりあえず納得してもらえたみたいでよかった。
あたしはほっと胸を撫で下ろす。
りのんが話しかけたことで話しかける勇気が出たのか、何人かのクラスメイトが近づいてくる。
まだどこかよそよそしいけれど、また元の関係に戻ってやるから!
……とはいえ、まずは瑠璃乃だ。
あたしには到底読めないような細かい字の文庫本を、首を俯けて読んでいる瑠璃乃に声をかける。
「ねー、その本面白いの?」
「……」
……無視。
「どんな内容? 表紙綺麗だねー」
……………。
うむ。ガードが鉄壁であるな。破れそうにない。
「さっきも自己紹介したけど、あたし明里ハル。よろしくね」
数秒の沈黙のあと、瑠璃乃はゆっくりと顔を上げた。
温度のないその瞳に、背筋がすっと冷たくなる。
瑠璃乃は小さく唇を動かした。
「……うるさい」
「……っ、」
あたしが固まっている間に、瑠璃乃は何ごともなかったように読書を再開してしまった。
「ねえ、あれひどくない?」
また囁きのさざめきが起こったと思ったら、それは瑠璃乃に向けてだった。
りのんがやれやれといった感じで首を振る。
「ハルちゃん、あの子は|文月《ふづき》瑠璃乃って言うんだけど、いつもあんな感じだから気にしなくていいよ」
|いつもあんな感じ《**・・・・・・・・**》?
あたしは目を瞬く。
違う。
確かに前も、瑠璃乃はいつも冷たさを感じるほどクールだった。
でも、その奥にはいつも優しさがあって、あたし以外の友達も何人かいた。
あたし知らないよ……**こんな、全部どうでもいいみたいな、ひとりぼっちの瑠璃乃は!**
久遠にどういうことか聞こうとしたら、指で小さいバツを作られた。
今はダメってこと? なんで?
訳がわからないまま、あたしは口を閉じた。
瑠璃乃に話しかけられず、久遠にも聞けないまま、1時間目、2時間目と時間が過ぎていき、3時間目は体育だった。種目はバスケ。
ちらっと久遠を見ると、珍しく今日は体育に参加してる。……大丈夫かな。なんで参加する気になったんだろ。今日は体調がいいのかな。
サッカーや柔道じゃないのが残念だけど、ここはあたしの腕の見せ所だっ。
練習試合で、あたしは仲間からのパスをぱしっとキャッチし、爆速のドリブルで敵の間を縫うように駆け抜け、試合開始からものの数秒でスリーポイントシュートを決める。
ネットを潜り抜けるボール。
わあっと味方のみならず敵チームからも歓声があがり、どこからともなくパチパチと拍手の雨が降る。
「ありがとー!」
そう言って笑ってみせると、バスケ部の男子が目を輝かせて近づいてきた。
「明里だっけ? お前すげーな! バスケ部入ってるオレよりずっと上手いじゃん! バスケやったことある?」
「うーん、バスケは体育の授業ぐらいしかないかな」
「マジで!? それでこれってありえねー! あ、オレは男バスの|松門《まつかど》|洸《こう》。なあ、バスケやらねーか!?」
「うーん……まず男バスに女子は入れないよね?」
どっと周りから笑いが起こる。
「いや! 顧問と部長を説得してみせるから!」
真剣な顔の松門に、あたしもプッと噴き出す。
「ごめん! あたしサッカー部に入るって決めてるんだ」
うちの学校のサッカー部は女子も入れるんだよね。
どおんっ。
見ると、松門が床に倒れていた。
……大袈裟じゃない?
「ええええ〜……ガチかよぉ……一生恨むぞサッカー部……!!」
松門は倒れた状態のままサッカー部の男子、|坂浦《さかうら》を睨みつけたけど、睨まれた本人はその必死の睨みもものともせず、ぱああっと笑顔になった。
「え、入ってくれんの? 歓迎するよ。キャプテンが人数が足りないって嘆いてたからさ、きっと喜ぶよ」
……キャプテンって、
「……速水先輩?」
「え、なんで知ってんの?」
驚いた顔の坂浦。あたしは慌てて誤魔化す。
「ううん、噂をこの学校の子から聞いただけ」
咄嗟に言い訳が思いつくあたし、すごい。言い訳に影宮の怪異説明理解に、この数週間で頭の回転が格段に速くなった気がする。
「そういうことか。確かにキャプテンイケメンだし性格もいいしな!」
そういえば速水先輩、あたしが告白らしい手紙もらったって言った時やけに挙動不審だったな……なんでだろ。
ま、いっか。
あたしは自分の運動神経に心から感謝する。
松門も坂浦も、もともとかなり仲の良かった男友達だ。
またこうして話せるようになって、良かったなあ。
……松門はいまだに床にうずくまったまま、坂浦を呪い殺しそうな般若の形相でいるのだけれども……。それだけ悔しかったの? いいような悪いような。
そうこうしている間に、コートでは次の試合が始まっていた。赤いビブスのチームと緑のビブスのチームが戦ってる。
赤の方には、瑠璃乃がいる。
あたしは思わず、その一挙一動を凝視する。
瑠璃乃の方に、女バスの|阿佐美《あさみ》さんのパスが飛んできた!
……そういえば。
瑠璃乃って背が高くてスタイルがいいから運動神経良さそうに見えるけど。
実は運動音痴なんだった……。
コートの隅で下を向いていた瑠璃乃がはっと顔を上げ、ボールに気づいた時には──すでにボールは敵チームに取られていた。
阿佐美さんが顔を歪めて、チッと舌打ちをした。
試合終了のホイッスルが鳴る。高く鋭い、体育でもサッカーでも何百回も聞いてきたはずのその音は、あたしの心をめちゃくちゃに掻き回す。
阿佐美さんは刺々しい声で、いつもつるんでた一軍女子数人と会話をする。
……あたしのことじゃないのに、怖くて、見れない。声だけが、耳から勝手に入ってくる。聞きたくないのに。
「あーもう、ほんと鈍臭い! 今の超チャンスだったのにさぁ! ほんとさー、文月ってうざいよね。ぜんっぜんやる気ないしさ。こっちもモチベ下がるっつの。文月じゃなくて**ゴミ月かなぁ**」
瑠璃乃を嘲笑う彼女たち。
──ゴミ月? 瑠璃乃が?
頬がカッと熱くなる。
何か考える前に、体が動く。
一歩、大きく前へ踏み出したあたしの腕を──、誰かがつかんだ。
「久遠! 離して!」
「離さない」
久遠は静かに言う。
「今お前がムキになっても、もっと今の状況が悪くなるだけだ」
ふっと、あたしの腕から力が抜ける。
奥歯をギリギリと噛み締めて、あたしはなんとか踏みとどまった。
……そうだね、あたしは後先考えない馬鹿かもしれない。
でもさ、いくら「元」だとしても……**親友を馬鹿にされて、何もできないで見てるだけなんて、嫌なんだよ……!**
あたしの「新たな」学校生活のスタートは、順調だと思ったのに……そうじゃなかった。
正確に言えば、あたし自身は、あのバスケの時からいろんな人に話しかけてもらえて、転校する前に恐れてた、孤立するってことはなかった。
だけどっ、瑠璃乃、瑠璃乃……っ!
とても楽しく話すなんて気分じゃなかったけど、放課後にりのんたちに呼び止められ、松門にバスケ部に勧誘されたので、笑顔を作って数言会話をし、階段を全力で駆け降りて校門へ向かう。すれ違う人全員が、あたしをぎょっとした顔で見るけど気にしない。
校門では、久遠が待っててくれていた。
「久遠……」
口を開いたものの、あたしはなんて言ったらいいかわからなくなってしまった。
「とりあえず、歩きながら話そう」
久遠に促されて、あたしは足を動かす。冷たくなってきた風が、肌をすうっと冷やしていく。
「……瑠璃乃! 瑠璃乃、いつもああなの!? あたしの知ってる瑠璃乃は違かった! それに阿佐美さんたち、あんな酷いこと、」
声がヒートアップしてきているのを感じ、あたしは口をつぐむ。
「……これから説明する。辛いかもしれないが、聞いてくれるか」
あたしは黙って頷いた。
「ハル。お前が消えたことで、今までの文月瑠璃乃の人生には、『明里ハル』は存在しなかったことになった。そのことで、今の世界に歪みが生じたんだ。いわゆる|後遺症《シンドローム》か」
あたしはまた頷く。それがどう関係するんだろう。
「お前はどうやって文月と仲良くなったんだ?」
あたしは大事な記憶を掘り起こす。
「……瑠璃乃とは小学校も一緒で、3年の時、瑠璃乃がひとりで本読んでて話しかけたの。頭良さそうでかっこいいなって思ったから。瑠璃乃もはじめは無愛想だったけど、だんだん仲良くなって、親友になって」
「そうだろ? お前がいなかった時は、文月はひとりだったんだ。じゃあもしお前が現れなかったら、文月はどうなってたか」
あたしははっとする。
「……ずっと、ひとりだったかも……。そういうこと? あたしがいなかったから、瑠璃乃はひとりぼっちになっちゃって、今みたいになっちゃったってこと?」
久遠は目を伏せる。
「……俺はハルを覚えてるから、ハルがいなかった世界は知らないけどな。俺が思うに、おそらくそういうことだと思う。しかも、中学となればそんな曲がったやつはほっとかれない。ありとあらゆる意味で。
──見たろ、阿佐美たちの文月に対する態度。わかるか」
久遠は、あたしを傷つけないために、あえて自分では言わないんだ。
──ゴミ月かなぁ。
あたしは唇を震わせる。
あたしの存在が消えたことによる、|後遺症《シンドローム》。
それは、世にも愚かな、
「……いじめ」
はい? はい?
ただいま自分が信じられなくなっている桜良です、なんか5000文字超えてるんですけど。
ああああああ……いろんなこと詰め込んだらとんでもないことに……
いじめが出てきましたが、グロい描写などはしないので、ご安心を。