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『クリスマスの夕日』
昔、昔。あるところに、1人の少女がいました。
「もうクリスマスかぁ」
少女はそう呟き、溶けていく白い息をぼーっと見つめます。
彼女は、とある難病を抱えていました。
そう。恋の病です。恋煩いとも言います。
「もっと早く彼に想いを伝えてたら、今日を一緒に過ごせていたのかな……」
少女は、俯きながらも歩みを進めます。
今日は同じ高校の子たちと、クリスマスパーティがあるのです。
少女はそれに参加する予定でした。
冬休みのド真ん中で開催されるパーティです。
みんなで声をかけまくった結果、同じ学年の子ほとんどが参加することになりました。
なので全員は把握しておらず、もしかしたら彼もいるかも、と思ってのことです。
ついでに言うと、クリぼっちが嫌なのです。
(それに、道中で彼とばったり会う可能性だって、十分にある! それに賭けよう)
白んだ空を眺めながら、少女は彼の姿を探しながら会場へと向かいました。
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(い、いなかった……)
最悪だ。なんでそんな酸素よりも薄い希望を持ってしまったのだろう。馬鹿か?
一周回って自己嫌悪に苛まれ、入り口付近で棒立ちする。
「あっ、来た来た! おひさ〜!」
「……あ、久しぶり。元気だった?」
「そりゃ〜もちろん!」
他愛のない会話を繰り広げながら、彼の姿を探す。
(…………いない)
大ショックのダブルコンボ。勢いで崩れ落ちそうになった足をなんとか固める。
はぁ、と小さくため息を吐く。彼女はこういう結論に至った。
(……よし。もういっそ彼のことは一旦忘れて、パーティを全身全霊楽しもう)
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「よっしゃ〜、一抜け!」「早くない?!」「俺も上がり〜!」
「ちょ、この罠仕掛けたの誰だよ?!」「あたしでーす!」
「ぶはっ、何ソレおもろ! 写真撮っていい?」「あはははっ、みんなヤバすぎ!」
楽しい雰囲気に乗せられ、少女も段々テンションが上がってきました。
「ねぇねぇ、次はさ__」
「ごめ、遅れた!!」
すると突然、勢い良くドアが開きました。
遅れて来たようです。みんな、それぞれ声をかけました。
一方、少女はそんな場合ではありませんでした。
え、と思わず声が漏れたのも無理はないでしょう。
なぜなら、その遅れてきた子こそ、少女の想い人だったのですから。
「な、なんでっ? てっきり今日は来れないかと」
「わりぃ、時計が壊れてて……気づくの遅くなっちまった」
少女は、頭を掻く彼を呆然と見つめます。
「コイツのために超特急でここまで来__むぐっ」
「お前はちょっと黙ってろ」
茶々を入れようとした男の子の口を、彼が瞬時に塞ぎます。
(ん……? 『コイツのために超特急でここまで来』……え、それってもしかして)
ちらっと彼の様子を伺ってみると、妙に頰が赤く染まっています。
やっぱり。
「あ、あのさ」
確信を持った少女は、思い切って彼に想いを伝えました。
「わっ、私と……付き合ってください!!」
腰を折り曲げ、祈りました。
(あぁ、言ってしまった……! どうしよう!)
「その……実は…………」
「俺もっ!」
思わず顔を上げ、彼の顔を見つめました。
「俺も……お前のこと、好き」
刹那、周りから歓声が上がります。いや、黄色い悲鳴と言うべきでしょうか。
少女と彼の顔は、夕日のように赤く、そして暖かく、何より明るかったです。
お終い、お終い。
このお話は、実際にあった高校生たちの淡い恋愛が元になっていますが、それは遥か数千年前のお話です。