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「また、明日
僕は幼馴染のことが大好きだ。
恋愛的な意味ではなく、もっともっと大切な家族以上の関係。
男女の幼馴染なんて周りにからかわれることもあるけど僕達は違う。
一緒に水族館だって行くしお泊り会だってする。
僕も向こうも恋愛感情なんて全く無い。
小学校の時から、いや生まれたときから僕達は一生の親友的存在だったのだ。
今だって僕は中学生。思春期真っ盛りの時期。
異性のことが気になる時期だけどアイツのことは全く気にならない。
なんならアイツの気になる人へのプレゼントを選んでやったくらいだ。
男の子の意見を参考にしたいだって?
僕に真っ先に相談してくるあたり信用されてんなぁと思う。
ずっとずっとこの関係で笑い合っていたい。
時間が過ぎて僕達は高校に入った。
同じ高校というわけでもなく普通に別々の高校だ。
目指す夢が違ったから仕方のないことだけどちょっと淋しくなったのは口が裂けても言えない。
でも、遊ぶ頻度は減ったものの放課後に二人でゲーセンに行ったりした。
高校になってから行動範囲が増えたから遠くのショッピングモールに付き合ったりした。
「高校になってもあんたは変わらないね」って笑いながら言うんだ。
いやいや少しは変わったに決まってんだろ?
そういうアイツは変わりすぎだ。化粧なんかしちゃって。
僕と居る時くらいそんなのしなくてもいいのに。
高校生活は色々なイベントが起こったと思う。
だってアイツに彼氏ができたんだぜ?
あのドジですぐ怒るこわーい奴に。
一回外出してる時に遭遇しそうになったんだけど慌てて隠れた。
一応雰囲気ってのがあると思って僕なりのハイリョってやつ。
アイツ見たことない顔してた。
なんだよ。これまで生きてきてアイツのそんな顔見たことねぇよ。
ニコニコしちゃって僕とは違う笑顔。
アイツの全部を知ってると思ってた僕には少しショックだった。
大体なんでアイツに彼氏ができるのに僕には彼女ができないんだよ。
不公平だろ。その日はムシャクシャしながら帰ったのを覚えてる。
数カ月後アイツらは別れたんだ。泣きながら電話が来たよ。
一回泣かせたあの男をぶん殴ってやろうかと思ったけど辞めた。
そんな事しても怒られるって分かってるし。
アイツの好きなぶどうジュースとバニラのちょっとお高めなアイスを買って家に行った。
目真っ赤にして泣いてやんの。私が悪かったとかわんわん泣いて。
あーあ。別れたって聞いてちょっとホッとした自分を殴ってやりたい。
その日は全力で慰めた。
数ヶ月経った時、アイツから連絡が来た。またどっか行くんだろうなと思いつつスマホを見る。
やっぱりカフェかよ。最近ハマってるもんな。
そこには『今週末猫カフェに行こ(ΦωΦ)』と書いてあった。
僕達は久しぶりに二人で出かけた。
猫カフェに入って猫を愛でる。
そういえばアイツは猫に似てる。
性格とか顔?とかなんか似てる気がする。
黒の猫がお気に入りみたいだ。猫の足を持ち上げて靴下履いてるーとか言ってる。
僕は猫カフェに来たのに猫じゃなく人間ばかり見つめていたようだ。
まぁ楽しそうでなにより。
その帰り線路沿いを歩いていく。ダイエットだとか言って歩くのに付き合わされた。
十分痩せてるって言っても聞かないんだろうなどうせ。
すると踏切辺りで黒猫に出会った。靴下は履いていない完全な黒猫だ。
アイツが手を出すと擦り寄ってきた。野良なのに人懐っこいなこの猫。
ふと猫がぱっと手から離れて歩き出す。
アイツは、あー行っちゃったーって呑気そうに見つめている。
踏切がゆっくりと閉まっていく。
黒猫は線路に向かう足を止めない。
二人で「危ないぞー」とか「電車くるよー」だとか声を掛ける。
でも黒猫は線路に向かって進んでいく。
そして電車が見え始めたのに黒猫は線路の真ん中でこちらを見つめている。
これ―。
そう言って隣を見たときにはもうアイツは線路に向かって走っていた。
耳を塞ぎたくなるような音がその場にこだまする。
何かが引きずられる音。真っ赤な液体。
理解するのに時間がかかった。理解したくなかった。
その後の記憶は一切ない。
どうやって帰ったのかすら覚えていない。
「また明日」その言葉は一生お預けになった。
それから僕は毎日線路に花を置きに行く。
毎日。毎日。
明日だってここに来るのに「また明日」は言えないまま。