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キミヨリ
2025/08/18
「待ってよ!」
屋上のドアを勢いよく開いた。柵を飛び越えた私を見て、那月は一瞬顔をこわばらせた。
「え、待っててよ、動かないでよ…。」
那月はそろりそろりと私の様子を伺いながら近づいてくる。「何がしたいわけ?」思わず口から落ちたその呟きが、那月に届くことはなかった。「何がしたいわけ!」私はもう一度言った。さっきより大きな声で、さっきより怒った顔で、言った。本当に怒っていたわけではなかった。ただ那月を引き下がらせるためにあえて演じた。このことで彼女に嫌われても構わなかった。だってどうせ、私はここから飛び降りて死ぬんだし。そしたらもう、何も関係ないでしょ。
「紗奈に生きてて欲しいわけ!!」那月は泣きながら叫んだ。驚いた。彼女からこんな大声を聞いたことがなかった。大粒の涙を拭き取ることもせずに私を見つめる那月に、何か棘のある言葉を放ってやろうと思ったけど、喉に突っかかって出てこなかった。
私は確実に近づいてくる那月に、わずかな恐怖を抱いた。早い者勝ちだというように飛び降りた。那月の声が聞こえたような気がした、けれどもすぐに風の音でわからなくなった。
私のことを嫌いにならなかったのは、見放さなかったのは、那月だけだった。私にとって那月は特別で、那月にとって私は特別だった。
那月のことは大好きだった。けど、少し重たかった。どうしようもなく。
もういいよね。もう、見放されたんだよね。離れられるんだよね。1人でいられるんだよね。私にとって、それは居心地の良いものだった。
まじでなんていうかもう…。
なんだよこれ!!!!!!!!!!