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優しい雨
「っ、雨?」
「折り畳み傘持ってたかな、、、寒いし、」
高いビルに囲まれた交差点。吹き抜ける隙間風。
傘を取り出し、差しながら歩く人たち。
なんだかみんな忙しなく動いていて、一人だけ置いていかれるみたいな感覚になる。何だか妙に気に入らない。
ビルとビルの隙間、細い路地にするりと身を入れた。
人がたくさんいるところはどうも苦手で、疲れてしまう。
「苦手だったからな、あいつも」
この路地のどこかにいるんじゃないか、なんて、目線は勝手に探してしまう。
今どこにいるんだろう。
問いかけるようにして下を向いた。
雨に濡れ、くたりとなっている靴。履き潰すほど履いているから、水も染みる。
しゃがんで軽く撫でると、幾つもの記憶がふわりと上がってきた。
忘れられない。
「別れよ」
「だって、、、ううん、いい、理由は」
「さよなら」
はっきりと言われたあの日だって、この靴を履いていた。
君がくれた靴。一生離すことができない、宝物だ。
すっかり汚れてしまったけれど。
それは僕が、幾度もいろいろな至難を、こいつと共に乗り越えたことと同義。
「、、、っち、思い出しちゃったじゃねーか」
思わず、滅多につくことのない悪態をつく。
そんな言葉とは裏腹に、見慣れない景色はすぐに滲んで見えなくなった。
さよなら、なんて言わないでよ。
君がいなくなった今、やっとわかったんだよ。
隣の温もりにどれだけ安心させられるか。寄り添ってくれる人がどれだけ大切か。
何十回、何百回、何千回でも、今なら、好きだって言えるから。
「好きだよ、」
そう、伝えるから。
僕は幸せだったよ、君がいるだけで。君もそう言ってくれたよね。
ちょっとした仕草がシンクロして笑い合ったり。
あくびが移って、2人で昼寝して寝過ごしちゃったり。
それだけで幸せだったじゃん。幸せだったよ、少なくとも僕は。
なぜ僕たちは出会ったの? なんで僕たちは過去なの?
優しい雨が、頬を濡らす。
雨はいつしか止む。
どうやら俄雨だったらしいこの雨もすぐに止み、通りを歩く人たちは次々と傘を閉じていった。
黒雲が去り始める。隙間から射す陽光と見える青空を見上げた。
ねぇ、今君はどこで、何をしてる?
昼だもんね、仕事中かな。どこかに出張に行ってるのかな。会社にいるのかな。
違う人と、俺じゃない人と、話したり、笑ったりしてるのかな。
刺されて傷つけられ、疼く心臓に気づかないふりをしながら、表通りへ出た。
歩き始める。
「綺麗だな」
また見上げる空はきらきらとしていて、この先の未来も輝いてるんだろうと錯覚してしまう。
そう、きっと君と、僕との物語だって、こうやって光る未来へ繋がっているはずなんだ。
今は別れてしまっていても、いつか必ず、どこかでまた結ばれる。
その先の未来はきっと輝いていて、その輝きに包まれてストーリーは終わっていく。
「そうだよね、きっと」
その物語を描き出すために、今ここに足りないものは、この胸の中にいる、君だけで。
君だけがいればいいのに。他に何もいらない。
隣に、ずっといてよ。僕だけの隣に。
どこへも行かないで。今すぐ抱きしめてよ。
温かいあの温もりが、僕は何より大好きだったのに。
忘れてただけだから、思い出しただけだから。
「いつも許してくれてたじゃん。酷いことしても、いつも、何度でも」
我儘でも、誰よりも君のことが好きな想いを、届けたい。
お願い、何度だって、君が好きって、好きだよって、言うから。
少し不器用で、心の制御が苦手なとこも。
僕が少しでも変なことをしたらすぐに優しく、明るく笑うとこも。
1mmも、1μmだって、離したくはないのに。
なぜすれ違ってしまうの? なんで君は頷かないの?
前を見た。
奇跡だと思った。
そこに、思い浮かべていた君の後ろ姿があったから。
君の癖で、移ってしまっていた腕組み。
歩きながらでも、組んでしまっていた。
僕の腕が、するり、解けていく。
「こっちから話すことは何もないでしょ」
「ただ別れたかった、それだけ。それ以上でも以下でもない」
「別れた理由、聞いてない」
「理由?うーん、、、それは言わない、絶対に」
「なんで」
「なんでもない」
「お願い」
「嫌」
「お願いだから」
「、、、しつこい、」
「今は、話したくない。」
「またね」
背を向ける。
いつだって一緒に歩いてくれてたのに。
いつも一緒に苦難を乗り越えてきたはずなのに。
こういう時、君はいつも俺を置き去りにする。
2回目だ。
ずるいよ、置いていかないで。
「嫌だ!!」
「さよなら、なんて言わないでよ!!」
「君がいなくなった今、やっとわかったんだよ。」
「隣の温もりにどれだけ安心させられるか。寄り添ってくれる人がどれだけ大切か。」
「何十回、何百回、何千回でも、今なら、好きだって言えるから。」
「いや、言わせて。好きだよって、言わせて。」
はっと目を見開いた君の目から、透き通った美しい涙の粒がこぼれ落ちていく。
それを、見つめていた。
「ねぇ、好きだよ。大好き。」
「遅すぎる、このばかっ、、、」
立ったままぽろぽろと涙を流しながら俯く君。
ぎゅっと抱きしめて、温もりを感じる。
空に少しだけ残る黒雲に問うた。
なぜ僕たちは出会ったの? なんで僕たちは過去なの?
優しい雨が、頬を濡らす。
優しい|雨《涙》が、頬を濡らす。
自分の中で想定はありますが3Lペアカプ全て自由です
自分の好きなペアカプを好きなように当てはめて使ってください