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【第肆話】刺客
〜?? side〜
??「………来たな、灯和。」
手鏡に映る灯和の姿を見て、私は小さく息を吐く。
その息が辺りの空気を揺らがせ、雲が動く。
??「………さて、警戒すべきは…」
私の目には、一人の青年が映っていた。
足を引き摺りながら岩山を一人で下っている。
狐耳と九つの尾が岩の灰色に目立っていた。
彼は恐らく強い神通力を扱える。《《私の張っている結界》》とは相性が悪い。
??「………早く排除しなければ…」
私は椅子から立ち上がり、背後で待機していた家令に指示を出す。
そして私自身も激戦にそなえ、灯和の元へと向かう。
??「……………灯和………」
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〜火影 side〜
__ズル…ズル……__
しばらく歩き、私は森のすぐ近くまで来ていた。
近くの草は湿っぽく、どこか居心地が悪い。
不気味に揺れる木々がわずかな風に揺らいで音を立てる。
しかし、周りは霧でほとんど見えなかった。
火影「…………」
足を痛めているせいで、歩くスピードがとても遅い。
焦れば焦るほど痛みが大きくなる。
*ズキッ*
火影「…っ………」
無理に動かしたせいか、痛みが桁違いに強くなっていた。
私はあまりの激痛に、地面にうずくまる。
火影(………これ…本当に捻挫してるだけか…?)
__ザッ…__
*??「よう兄ちゃん、あんたが今夜のわいの遊び相手か?」*
火影「!!」
**バッッ!!**
突然の声に私は後ろに下がり前を向く。
そこには、私と同じほどの背丈の男が立っていた。
しかし、とても人間とは思えなかった。
手足からは虎のように鋭い爪が生え、背中からは蛇が覗いていたのだから。
背後の大きな黒い羽がゆらゆらと揺れる。
目の前の男…恐らくは`鵺`が私に語りかけてくる。
??「ん?どないしたんや?挨拶しただけやんか。」
火影「お前は誰だ。名乗れ。」
??「おうおう、そう怖い顔せんといてくれや!」
そういうとその男はケラケラと笑う。
しかし、こちらを覗く黄金色の目からは、ギラギラと鋭い殺意を感じた。
火影「…名乗れと言っているんだ。」
??「わいの名前は**|焔颶《えんぐ》**や。ま、覚えんでもええで!」
**「どうせあんたの命は今夜限りやねんからな!」**
火影「私は火影だ。」
焔颶「…ん?なんや兄ちゃん、えらいすました顔するやんか…」
***「……あんたのその顔、めっちゃ歪ませ甲斐あるわぁ…!!」***
---
〜沙雪 side〜
沙雪「…いないね…皆……」
灯和「うん…心配だなぁ……」
竜翔「………ずっと生き物の気配は感じるんだけどな…」
三人で歩き始めて、もう何時間になるだろうか。
人間である私でさえも感じるほどの強い妖気だ。
逸れた三人に何も起こっていないことを祈りながら足を進めていた。
と、その時、灯和が私の方を振り返る。
灯和「………ねぇ沙雪ちゃん。」
沙雪「?どうしたの…?」
灯和「これ…使わないのが一番だけど、念のために持っておいて。」
そう言って灯和は私の手と自分の手を重ねると、力を込める。
***ポワッ!!***
するとその瞬間、青い炎が巻き上がり、私は思わず少し後ずさる。
しかし、不思議と熱さは感じなかった。
しばらくすると、手の上に白い刀が置かれていた。
沙雪「…!?これは…?」
灯和「う〜ん…まあ、お守りみたいなものだと思ってて!」
「…僕は扱えなかったんだけど、多分沙雪ちゃんなら大丈夫だよ。」
沙雪「う、うん…!」
私がそう言うと、灯和は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、前を向くとすぐに緊張が走った表情に戻る。
__竜翔「…………灯和……大丈夫かな…?」__
__沙雪「………ここに来てからずっと様子変だよね………?」__
__竜翔「……もしかして…昔ここでなにかあったとか__
--- ***とまれ。愚かな妖怪と少女よ。*** ---
沙雪「!?」
竜翔「うわっ…!!?」
灯和「…っ!!?」
**バッ!**
突然の低く響くような声に、私たちは固まる。
たった一言で、私の腕はすでに震えていた。
私は気づけば目の前に差し出されていた灯和の腕を握っていた。
灯和「………誰…?」
--- ***お前が一番よく知っているだろう?*** ---
灯和「……?」
__*ザッ…ザッ…ザッ……*__
足音が少しずつ近づいてくるのがわかった。
私と竜翔は灯和の後ろにまわる。
灯和は足音がする方向をずっと見つめていた。
__灯和「………燈羅刹。」__
そう呟いた瞬間、灯和の手の中に巨大な金棒が現れる。
足音はすぐ近くまで来ていた。
やがて、霧の中から人影が出てくる。
*??「…忘れたとは言うまい。この何百年、ずっと逃げ回っていたのだからな。」*
**灯和「!?」**
沙雪「……!?」
竜翔「え…?」
灯和の手に一気に力がこもったのが見てとれた。
顔を見ると、冷や汗が頬を伝っていた。
*??「………おっと、竜の少年たちへの自己紹介が遅れたな。失礼した。」*
竜翔「!なんで知ってるの…!?」
人影がはっきりとしていく。
高い背丈、黒い癖のある髪、鋭く光る赤い目、少し尖った耳、赤い着物。
そして、黄金のタッセルイヤリングと、赤く染まった2本のツノ。
……見覚えがあった。いや、いつも見ている気がした。
??「私は`大嶽丸`の**|冥嶽《めいがく》**。この『妖冥界』の国王であり、守護者である。」
「…そして、お前たちの目の前にいる酒呑童子、灯和の兄だ。」
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第肆話 〜完〜
焔颶
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冥嶽
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