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悪魔的節約術
ひどく傷んだ木材に白のチョークで魔法円を描いていく。
傍に置かれた上質な香りのハーブや香炉、ローブ、儀式用ナイフの数々はどれも色々な手段を用いて安く仕入れたものだ。ケチなのではない。節約に過ぎない。
チョークの白粉で塗れた手が掴もうとしているのは、他でもなく、この一室の向こうの魅力的な女性。
艶めかしい身体に、情を唆る瞳…そして、小悪魔的な性格。数多くの男性を虜にしてきたことだろう。
あの、人をからかうような赤く染まって艶のある唇から吐息や言葉が漏れる度に、自分が彼女の為ならなんでもしようと思わされた。
それから、何事にも一心になって彼女に貢ぐほど身を粉にしていた。しかし、何が悪かったのか、彼女は軽く笑って嬉しがるだけだった。
私は彼女を求めたが、彼女は私を求めなかった。それがひどく苛立たしい。
地獄の底で煮えたぎる溶岩のように私は熱く燃え上がり、熱を帯びた思考は非常識にも悪魔というものに手を染めた。
そうして今、魔法円は完成する。彼女とほんの少しの隙間を空けた、その場所で。
儀式用のナイフで迷わず掻っ切った傷口から血が垂れ、魔法円が光り輝いた。
その内、艶めかしい声が響き、おどろおどろしくも大願を成就する素晴らしいものが見参した。
姿こそは見えずとも、分かる気配そのものは大悪魔そのもので、こんなに安い道具でも来るというのが些か笑いをひくものだった。
それは私を見て、女神のように微笑み、代償を要求した。
私は先に「この壁を一枚隔てた先の彼女が欲しい」と要望を答え、目の前の大悪魔は少し考えた後に首を縦に振った。
指を鳴らして、何やら気絶している彼女が私の目の前に現れた。私はひどく顔を歪ませ、彼女に触れようとした瞬間に私の胸がいやに熱く、貫かれたような感覚に包まれた。
意識が遠のいていく最中、大悪魔は「これもまた、節約である」と呟いて、彼女の胸にぽっかりと小さな穴を空けた。
最後に姿がはっきりとなり、小柄な姿で可愛らしく笑ってみせた。
それは、本物の“小悪魔”のようだった。