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ほぉるけぇき
早く治りますように。
「まま、いつげんきになるの?」
小学一年生。母親の自分そっくりな一重の目元を見ながらそう言った。
「ん〜?どうだろうな、えっちゃんが10歳になる頃かな。」
にこっ、と笑って母親は言った。10歳になれば、きっと真実に気づくから。
「あとどんくらい?」
少し口角を下げて悲しそうに呟いた。10歳までが程遠く感じてしまっているのだろう。
「えっちゃんが大きくなるまで!えっちゃんも、ままと一緒に頑張ろうね!」
「…うん!」
家に帰ると、父親の足にまとまりついた。
「ぱぱ〜。」
「えつ、どうしたの?」
「ままのためにけぇきつくるの!ままはけぇきがだいすきなんだって!」
よく、実家のケーキ屋さんの話をする母親がケーキを好きだと思い、父親に作りたいと懇願した。
父親は少し悩んだ末に微笑んで、少女に目線を合わせるため膝をつき言葉を発した。
「…そうだね、えつ。ままが元気になってから作ろっか。」
「ううん、きょうつくるの!」
「きょ、今日?!」
「うん!ままにけぇきみせるの!」
「お、おー。作ろっか!お兄ちゃんとお姉ちゃん連れてきて。」
「うん!おねーちゃーん!おにいちゃーん!」
「何、。」
「宿題やってんだけど。」
反抗期、思春期真っ盛りの姉と兄にとって、呼ばれるという行為は本当にダルい。
「ママにケーキ作ろうかなって!
宿題は後で教えるから!な?」
「母さんに、けぇき…。」
兄は少しワクワクして、
「チッ、絶対デッカいホールケーキにしてよね。」
姉は嬉しい気持ちをなんとか隠して強い口調で言った。
「もちろん!」
父親は嬉しそうに笑った。
数時間経って、トッピングをどうするか問題を姉と兄が討論していた。
「いやいや!母さんのこと考えれば俺らの顔だろ!!」
「ムズイって!下手の見せるより頑張って、上手く書ける方がいいでしょ?!動物だよ!」
「姉ちゃんは分かってない!」
「そっちこそ!」
結局どうなったか、それはどちらもだった。
父親が時間制限があるわけでもないから、と二つとも書くことになった。
「お前は自分の顔をブサイクに書いとけ。」
姉は弟のチョコペンで描いている輪郭を見ながらそう言った。
「お前こそ。なんだこのバケモンは。」
すでに完成しかけている姉の描いた何かを指さして言った。
「うさぎだわ。」
「ただの怪物だわ。」
「そっちこそなんだよこのハゲ。」
「父さんだよ。」
「ここまでハゲてねえよ。」
「ま、まあまあ喧嘩しないで。」
またまた数時間経って…
「やっ…とできた。」
「ほぉるけぇき!おにいちゃん、おねえちゃん、ぱぱ、ありがとぉ!」
「うんうん、パパも嬉しいよ。」
「じゃあ、3人とも、こっち向いて!
ハイ、チーズ!」
『3人とパパで作りました。ママが早く治りますように。』
メールで写真と共に母親に送った。
「ほぉるけぇき…。」
自身の店を思い出しながら、夜空を見上げた母親のことは、誰も見ていなかった。