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1.ここが……どこ?
「やーまーなさん!」
「……何? 佐藤さん」
「何って酷いなぁ。おしゃべりしに来ただけだよ?」
「分かったから後ろに乗っからないで」
「何で? あたしを乗せられるとか名誉だよ?」
「やめてよ」
それは、いつも通り佐藤さんに絡まれているときのことだった。
突然、白い光が生まれて……
気が付いたら、目の前に豪華な服を着た人後いかつい感じの衛兵のような人がいた。
「「「「「「聖女様、ようこそいらっしゃいました!!」」」」」」
そして、それが土下座のような体制をとっている。
ん? 聖女様?
よくある異世界召喚みたいなやつなのかな?
まさか私がこんなものに巻き込まれるなんて……
「みんな、顔をあげて。あたしはみんなの顔をみたいな」
「「「「ははー!」」」」
佐藤さんの物言いに、みんな顔をあげた。
そして、その瞬間どよめきが走った……気がした。
「二人……ですか?」
「片方が負ぶられているように感じるが……上の方が聖女様なのか?」
その発言が聞こえて、現状を認識する。
そうだった、佐藤さんに乗っかられた状態のまま召喚? されて、今もその状態が続いているんだ。
「佐藤さん、降りて」
「うん!」
さすがにこの人たちの前で我が儘を見せる必要はないとでも思ったのか、すんなり降りてくれた。
「おい、結果は?」
「どちらにも聖属性の反応があります!!」
「なんと……!?」
「お二方とも聖女だというのか?」
「サムエル、よくやってくれた!!」
「嬉しい限りです」
「状況を説明してよ!?」
あーあ、佐藤さんが怒った。
「申し訳ありません、ですが我々も戸惑っていまして……」
「今わかっていることだけでもいいから!」
「……はっ!」
そして、彼らは説明を始めた。
「今、この世界では聖女が不足しておりまして、この度召喚することにしたのです。そしてあらわれたのがあなた方二人です。
そして、先ほど、どちらも聖女様であることが判明しました」
「こいつも?」
「……です」
「あのー……」
「で、聖女が不足しているからあたしに活躍してほしいの?」
「ええ、お二方に、ですが。
今この世界の聖女様は大変危険な目に遭っておりまして……」
「細かいところはどうでもいいから。あたしが聖女としてちょー活躍すればいいんでしょ?」
「そうです」
「あ、さっきからあたしに話しかけているけど、あんた誰?」
どうやら佐藤さんはこの偉い立場にいそうな人たちを下の立場に見たようだ。
私たちが聖女として召喚されたのなら、確かに、あの人たちは下手に出るかもしれない。
だけど、それじゃあこれから先はやっていけないと思う。
そんなことを言っても佐藤さんは受け入れないんだろうな。
そんなことは分かり切っている。
「名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません! 私はこのデカンダ王国の国王でございます」
「わたくしは王妃ですわ」
やっぱり。
あるあるとしては始めに私たちと話しているのが偉い人だよね。
「あたしは佐藤|優海《ゆうな》」
「ユウナ様でございますね」
そして、国王は私の方に顔を向ける。
「私は山名|優海《ゆみ》です」
「ユミ様……名前が似ていらっしゃる。二人同時の召喚ができたのは名前のおかげかもしれませぬな」
間違ってはいない。
私は、名前の漢字が、佐藤さんと同じだから、目を付けられた。
だからこそ絡まれ、だからこそ同時に召喚されてしまったのだろう……引っ付かれたがゆえに。
「あたしの名前のほうがかっこいいっしょ?」
佐藤さんは自慢げに言う。
彼女はそんなことは思っていない。
だからこそ私は絡まれていたんだから。
今は、ただ、私から優位になるためだけに言っている。
なんか……哀れだな。私は絡まれている側だけど。
「いえ、どちらの名前も素晴らしいと存じます」
「……そう」
急に不機嫌になった。
面倒くさい。
本当に彼女は聖女なのだろうか?
私も聖女なのだろうか?
理解できない、分からないことが多すぎだ。
大体、佐藤さんの所為で私たちが呼ばれた理由もまともに聞くことができなかった。
……彼女は、私にとっては疫病神だ。
「どこで仕事をするの?」
山名さんは国王にも気軽に質問している。
「神殿ですか? 余裕があるときは王宮も雇っていたのですが……」
余裕があるとき?
あ、そっか、今聖女は足りないんだったっけ。
なんでだろう?
よくあるのは魔物が多くやってきて、今いる聖女じゃあ対処しきれない、ってところかな?
どうなんだろう?
「え、けど今回山名さんが来たんだよ。彼女は仕事はちゃんとすると思うよ、愛想はないけど。彼女だけで十分じゃないかな?」
「そうでしょうか? 今、聖女の人手不足は深刻で……」
山名さんはどうやら王宮に雇われる方になりたいらしい、
その思考回路はきっと、王宮の方がぜいたくな暮らしが出来そうだとかそんな感じなんだろうな。
「ユミ様、ユミ様は神殿で働いてもいいと考えているのですか?」
「私は構いません」
「あ、そうそう。ユミはね、あたしのことなぜか嫌っているんだよね。だから、あたしとは別のところがいいんじゃないかな?」
「そうですか?」
嫌っているって……それ、あなたの方だよね?
「王様は今子供とかいないの?」
「いますが……? 彼が私の息子ですよ」
そして王子をユウナに紹介する?
「あのさ、あたしが王宮で働いちゃダメ?」
「……構わないよ」
今度は王子を落としいったか。
しかし上手くいきそうな気がする。
「では、ユウナ様は王室専用聖女、ユミ様は神殿で、いろんな方々の役に立つ聖女様で構いませんか?」
「はい」
……どうしてか、こうなった
なんやかんやあり、佐藤さんは国王、王妃、そして王子に気に入られることに成功したようだ。
彼女のように自信満々なほうが聖女らしいから、だから気に入られたのかもしれない。
彼女は王室専属、私は神殿。
明暗ははっきり分かれた。
まあこうなってしまったものは仕方がない、と諦めることにする。
ただ、佐藤さんと離れられたことは、純粋にうれしかったから。
多少面倒ごとを押し付けられようと、佐藤さんに会わなくていいなら、許容範囲内だ。
ゆうな、という名前を私が変に思っているわけではなく、ユウナの性格上、ストレートに読む方が、変にひねった読み方をするよりかっこいい、と思いそうだったので……
気を悪くされたらすみません