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4 ……父様?
みやめお #meo
ギャグ要素は入れないことにします。
ある夜。
私は母様と一緒に寝ていたが目が冴えてよく眠れない。
私はトイレに行くために、部屋を出た。
父様の部屋の前まで行く。
すると何やら中が騒がしい。
私はそっと中をのぞいた。
そこには、父様が背中を向けて立っていた。長いローブが血のように赤く染まり、その足元には倒れた影。
部屋に充満する鉄の匂い。私の目は本能的にその影に向かう。
魔族ではない。人間の姿をした侵入者が、息絶えていた。
「……命を奪うことに、躊躇はない。でも理由なくはしないさ」
父様は低く呟いた。
「でも、僕の家族に手を出すものは許さないよ」
父様は部屋の中には一人しかいないはずなのに、冷たい顔でつぶやく。
私がそっと去ろうとすると、父様が優しい声で呼びかけた。
「ルー。入ってきなさい」
私は震える足でそっと部屋に入る。
血の匂いはまだ消えず、父様の背中が夜の闇よりも重く感じられる。
その瞬間、父様がくるりと振り返り、私をじっと見つめた。
「ルー。怖かったかい?」
私はこくりとうなずいた。部屋の空気は重く、鉄の匂いが喉に刺さる。
魔王――父様は、ゆっくりと赤く染まったローブの裾を払った。
「勝手に入ってきたんだ。魔王城の結界を破ってまでね」
その声には怒りも、悲しみも、あるいは呆れも混ざっていた。
「……人間の冒険者たちだった。王都の名門ギルド所属。“討伐依頼”なんて体裁で、堂々と門を破ってきたよ」
私は思わず息を呑んだ。
「なんで……?」
「理由なんていらないんだろうね。魔王城に“危険がある”って言えば、何でも正義になるらしい」
父様の笑みは皮肉に染まっていた。
「それで……殺したの?」
「そうしないと、こっちが皆殺しにされるところだったよ。家族も、家臣も。彼らは“駆逐”しに来たんだ。先制攻撃をしてきた。僕らはただ、防御しただけさ」
私は言葉を失った。だけど、その手を見たとき、思った。
この手が、私を包んでくれたこと。
この腕が、私を守ってくれたこと。
「……父様のせいじゃ、ないの?」
沈黙が落ちた。空気が静まり返る。
父様は少しだけ目を見開き、そして小さく笑った。
「ルー。もし僕が悪いなら、それでもいい。君がそう感じたなら、僕は受け止めるよ」
私は息を呑んだ。予想していた答えとは違った。
でも、あたたかかった。
「でもね。僕は君を守るために、選んだんだ。何かを犠牲にするしかなかった」
その言葉は苦しげで、でも真っ直ぐだった。
心の中にあった迷いは、まだ消えない。けれど、少しだけ、進める気がした。