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半炒飯
なんで半チャーハンの二倍盛りを頼むんだ?
一週間に一度、昼と夜に意味のないことをする少年に、私は毎回料理が冷めるまで振り回される。
「お嬢ちゃん、今日は何頼むんだい?」
目の前の40歳くらいの女性が私に注文を聞く。
「えっと、豚肉ステーキと」
私の注文はチリンチリンという音に遮られる。
この音は店のドアについているベルが奏でる音。つまり誰かが入店したサインだ。
私は内心ドキドキしながらドアの方を見る。
そこには、例の少年がいた。
10分後、私の目の前にはチャーハン…いや、半チャーハンの倍盛りを美味しそうに食べる少年がいた。
半チャーハンの値段は300円、チャーハンの値段は430円。
そして倍盛りは…プラス155円。
つまり、普通にチャーハンを頼む方が圧倒的に得なのだ。
私は豚肉ステーキをさっさと平らげる。冷めてから食べるのはもったいないと今日やっと気づいたからだ。
この店の豚肉ステーキは450円。ワンコインでドリンクまで付いてくることを知ってからずっとこの店に通い詰めている。
トマトソースがまた美味しいんだ。家でも作ってみたいんだけどな~。
そんなことを考えていたら…少年が帰ってしまった!
「はぁ…本人に直接聞こうかな」
私はそう考えるが、せめてなにか一つでも仮説を立ててから聞くほうがいいだろう。
「お会計495円です~」
私は500円玉を差し出し、5円玉を受け取る。
私はそれを財布に入れようとして…やっぱりやめる。
しょうもないことからヒントを手に入れるドラマの刑事を思い出したからだ。
まぁ、5円玉の穴を眺めたところでなにが思いつくんだという話ではあるが。
◇◇◇
「吐き気してきた…」
私はスマホを確認したことを激しく後悔する。
『腹パン2、3発叩き込みたい』というメッセージのせいだ。
もうこれ訴えたら勝てるだろ。私は気持ち悪いメッセージから目を離すために画面をズームアウトする。
これで少なくとも文字は見えない。
「しっかし、なんでこんな人生なったんだろうな…」
私はこれまでの人生を思い返す。
5歳の頃、水族館に親と行ってイルカに水しぶきの狙い撃ちを食らった思い出。
10歳の頃、身長がクラスで一番低くなり恥ずかしかった思い出。
そして12歳の頃…『あの人』と出会った思い出。
思えばあの人のせいだ。私がここまで下劣なメッセージを喰らうようになったのは。
言うならばあの人は全ての元凶だ。
私をここまでSNSにはまらせたのも、下劣なメッセージを送るフォロワーのおすそ分けをしたのも彼女だった。
彼女との思い出は他にもたくさんある。例えば一緒にコンビニに行った時にお金が足りなくて…。
そういや、なんであの時お金が足りなかったんだろう。
彼女はちゃんとお金を持って生きていたはず…。
その時、私は彼女のミスの理由を思いつく。
「え…ちょっと待ってこれ!」
そしてその理由は、半チャーハン倍盛りの彼にも関係があるものだった。
私は腕時計を確認する。
2時15分。彼が再び店に来るまで少し時間がある。
私はベンチに座ってどうしようか考える。
とりあえずアラームを設定しておこう。私はSNSを見ないようにスマホを操作し、彼が来る6時頃に設定した。
そしてどうしようか考えているうちに…私は眠くなってしまった。
いやいやいや!?外で居眠りとかだめだし。
でも、そう言ってもな…。
そう考えているうちに、私の意識は深く沈んでいった。
◇◇◇
黒い道、暗くなってきた空。
私はその中心に立っている。
私は意味もなくその道を歩く。
道を少し歩くと、『あの人』がいた。
「…あ、絵夢さん、久しぶり」
私は彼女にぎこちない挨拶をする。
彼女はなんて返すのだろうか。私のドキドキを裏切るかのように―――彼女は逃げ去った。
「え、待って!」
私は彼女を大声で呼び止める。
嫌だ。ずっと再会したかったのに。
私は息を短く吸う。
彼女に向かってなにかを言いかけた時…私は目覚めた。
◇◇◇
「アラーム、か」
私は鳴り響くアラームを止め、そのまま店へ直行する。
私は彼にこの仮説をぶつけることを決めた。
「半チャーハンの倍盛り入りましたー!」
店員さんの声をベルで遮りながら、私は店に入る。
「半チャーハンの倍盛り、下さい!」
私は店員さんに注文をする。
少年が私の方を振り返ったことを確認した私は内心ほくそ笑んだ。
10分後、私はお会計をしようとする少年に近寄る。
「お会計」
「500円。ですよね?」
私は店員さんの声を遮る。店員さんは驚きつつ、頷いた。
私は少年に話しかける。
「今、ちょっと時間あるかな?」
私は彼が頷いたことを確認し、そのまま言葉を続ける。
「半チャーハンの倍盛りの値段は455円。でもそれは『税抜き』の話よ」
「消費税の計算を入れると、半チャーハンの倍盛りの値段は500円」
「それに対して、チャーハンの値段は473円」
「つまり、チャーハンをそのまま頼むよりキリがいいんです」
「ここまで正解ですか?」
彼は驚いた顔をしながら頷いた。
「まぁ、なんでキリがいい方がいいのかはわかりませんけどね」
少年は答えた。
「あの、僕のお財布小さいから、あんまり小銭がいっぱいあると入らなくて困っちゃうんです」
「前それでチャックを壊しちゃって」
なるほどな。と私は思った。
そんな中、少年は笑顔でこう言った。
「お姉ちゃんすごいね!名探偵じゃん!」
私は少し誇らしくなる。
「ふふん」
その調子のまま、私は半チャーハンの倍盛りの値段500円を払って店を出た。
◇◇◇
「結局この5円玉使わなかったな~」
私は月に5円玉をかざす。
そのまま財布に入れようとしたとき、なんと私は小銭を落としてしまった!
しかもその5円玉はスムーズに溝の中に入っていく。
「あー!」
私はつい叫んでしまった。
すると、周りの人がこちらを見つめる。
いや違うんです!私は驚いただけで5円玉くらいで騒いだわけじゃ!
私は弁明しようとした瞬間、ある人物を見つける。
その人物は私が一年前に飽きるほど顔を見合わせた相手で…今日夢に出てきた相手だった。
「え?」
彼女は疑問を抱きながら、私から逃げ出す。
夢の中とおんなじだ。けど、一つだけ夢の中と違う点がある。
「私、今でも知りたがりなんで!」
私は夢で言いかけた言葉を彼女の背中に叫ぶ。
その言葉が届いたかどうかは、わからなかった。
人事ファイル No.5
??? ???
好きなもの: ???
嫌いなもの: ???
四折をSNSの世界に引き込む原因となった少女。