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第8回 転生した偉人はどこへ?
家に帰り、自室に行く。カバンから白いカバーのスマホを手に取り、検索窓に入力する。えーと、『橘』…と。
プルルル…という音の後、「もしもし?」という、久しぶりの橘先輩の声がする。
「もしもし。えー…歴暦です」
「暦ってことはわかってるわよ、電話番号とか見れば」
鋭いツッコミ。うぅ、的確な表現は人を傷つけるのに。
「えーと…新たなことが発覚してしまいました」
__「あ、暦さんですかっ?」__
という赤の声が小さくだけど聞こえる。
「何、改まって」
「今日、またタイムスリップしました。先日は紫式部、今日は清少納言です」
「なんでそんなに、時系列順に行くのよ…」
うん、それはわたしもつっこみたいです。
「図書館でタイムスリップしたんです。まず1つ目の報告です。卑弥呼の時は歩道橋から転落するとかの事故レベルだったんですけど、今日は台車がけっこうなスピードでぶつかってきただけでタイムスリップしました」
「はあ、要するにタイムスリップしやすい体質になったわけね。わたしは専門外だから、彰子に要相談、と」
「それで、普通に清少納言としてやり過ごしました」
「普通とは何か問いたいわね」
「2つ目。この前、紫式部にタイムスリップしたとさっき言いましたよね?その時、清少納言に出会ったんです。今日、歩いてたら紫式部に出会って…同じことを聞いたら、同じ返事が返ってきました」
「…どういうこと?」
語彙力がないばっかりにいいい。
「見かけは清少納言と紫式部の会話だけど、実際は過去のわたしと未来のわたしで話をしていた、という感じです」
「はっ?信じられないわ、そんなの…でも、あり得る、わよね。ときと場所が偶然一致していれば。ましてや、どっちも有名でどっちも同じところに住んでいたのなら」
そうなんです、という言葉を飲み込み、話す。
「次が本題に等しいです」
「本当?もうびっくりだらけよ?」
「はい。その後、また目覚めて戻ってきました。その時に、台車をやった人が、すごい言葉を残してきたんです。『ここはどこなの?そうだわ、枕草子に書きましょう…いえ、わたしの表現力ではとてもかないませんわ』みたいに言っていた、んでしたっけ?そんなふうに言ってたんです」
「嘘…まるで、《《本物の清少納言》》…」
そうなのだ。
一時的だが、わたしと偉人の肉体もしくは精神が入れ替わっている。そういうことだ。
「はい、そうなんです。まだ、わたしだけがタイムスリップしただけなら差し支えありません。でも、偉人、昔の人が現代人の肉体に入れ替わったら大問題なんです。歴史警察の橘先輩ならわかりますよね」
「ええ…もし、昔の人、何も理解が出来ていない人が犯罪を起こしたら…自分の精神は無実だが、自分の肉体は有罪というふうになってしまう。矛盾、つじつまが合わなくなる。まずいわね」
「そうなんです。田町さんに言ってもらおうと思って」
「わかったわ。取り敢えず、そちらから直接かけられるよう、彰子の電話番号を教えておく」
そう言って、橘先輩は数字を読み上げ始めた。