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桜を冷たく感じるなんて
温かい春のはずなのに、冷たく感じるのはなんでだろう。
桜が散っていく姿はどこか冬に降る雪を彷彿とさせる。
君がいなくなって数ヶ月、僕の周りはまだ冷たい気がする。
『初めまして!あたしは|日向春《ひなたはる》。君の名前は?』
君が初めてこちらに話しかけに来た時のこと、今でも鮮明に思い出せる。
明るくて、名前に負けない温かさを持つ君がまだどこかにいる気さえする。
『あたし、後一年しか生きられないんだー』
空元気なような、無理に明るく話しているような。
そんな彼女に、僕は一体何と声を掛けるべきか悩み、結局何も言わずに抱きしめた。
『えぇ!?君ってば、大人しいくせに意外と大胆だよねー!あはは⋯う、うぅ』
慌てたような声のあと、いつもの明るさが嘘のように静かに泣く彼女。
その後、彼女が泣き止むまでそばにいたっけ。
『いやぁ、立てなくなっちゃったー!押して押してー!』
車椅子に乗った彼女の目線はかなり低くて。
僕はそんな彼女の車椅子を押しながら全力疾走して。
『わー!速い速い!きゃー!ふふ。あははは!』
無邪気に明るく車椅子に乗っている彼女が死ぬなんてこれっぽっちも思えなかった。
そんな彼女の病状は悪化していく。
『入院することになってしまいましたー!てへ!』
病室で寝ている彼女も、いつもと変わらず明るい。
けど、明らかに段々と元気がなくなっていく。
『死にたくない、死にたくないよ!いいよね、君は。私と違って⋯まだまだ生きられるんだもん。』
刻一刻と死が近づいてきた彼女。
取り乱す彼女に掛ける言葉はやっぱりなくて。
しばらく彼女の背中を擦りながらそばにいる。
『いやー。昨日はごめんね。ははは』
気まずそうな彼女の声に思わず吹き出すと、彼女はどこかホッとしたような顔をした。
『もぉ、謝ってるのに笑うことなくない?』
ふくれっ面をする彼女はいつも通りで。
やっぱり彼女がいなくなるなんて考えられなかった。
『残念ですが、お亡くなりになられました。』
いつもと同じ時刻に病院へ行くと、彼女は息を引き取った後で。
恐る恐る布をめくると、まるで寝ているみたいに穏やかな顔をした彼女がいた。
寒い寒い、冬の出来事。
彼女のいない現実はあまりにも寒く、冷たく、寂しいものだった。
春になった。彼女の名を表す、春に。
なのに、こんなにも冷たいのはなぜだろう。
ねぇ、君がいなくなってからちっとも温かくないんだ。
サラサラと散り積もる桜が冷たく見えるのはなぜだろう。
まるで雪のように、冷たく見える。
春が温かくないなんて。
桜を冷たく感じるなんて。
難しいですね。