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幕間
ほのぼのしかないです。愛しさと良妻感が半端ないです。まあ、だから幕間なのですが。グリンプス番外編の次の日あたりかな?
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「ん……」
瞼の向こうに差す光と肌寒さに、私は無理やり起こされた。
私、太宰治という人間は、朝は好きではない。
今日も生きている事を再認識させるから。
何よりも、起きる感覚が嫌だ。
何か、抗いようのない力に引っ張られ、緩み、また引っ張られ、を繰り返す様な感覚。
心臓までも操れる自分が操られている様な感覚が腹立たしくなる。
其の上、軽い立ち眩みもするのだから気分は最低だ。
「………ふぅ」
気怠さから目を逸らして目を開く。
ふと隣に目を向けると、居たはずの人物がいなかった。
少し手を伸ばして触れてみる。
温もりも残されていないことから考えると、随分と前に寝台から出て行ったらしかった。
ほんの少しの──否、それなりの物足りなさを感じる。
今日は珍しく休みがあったもので、昨日から泊まりに来ていた。
昨日だって、まあ、それなりのことはしたわけで。
(……薄情者……)
久方ぶりに会えたというのだから、もうちょっと安眠と休息を享受したかった。
起きてしまうと、“明日”へのカウントダウンが始まってしまう様で不愉快極まりない。
“明日”になって仕舞えば、“今日”は幻の様に消えて行ってしまうのだろうし。
(て、明日も生きること前提じゃないか……)
彼──中也といるとこんなことが多々ある。
そんなことがあるたびに、
嗚呼、私は彼に生かされているのだろうか、なんて。
思ってしまう事もある。
こんな死にたがりでさえも生かしてしまう彼。
(だから、幻と恐れるのかもしれないけれど)
そんな思いを気だるさと共に唇から吐き出しながら起き上がった。
「お、やっと起きたか!」
のろのろとリビングの方へ続くドアへと動き始めると、丁度其のドアが開かれた。
其の微笑みに、私はすとん、と何かが収まるのを感じた。
日光にきらりと反射する|金盞花《マリーゴールド》色を見る。
僅かに珈琲の香りが感じられた。
朝食の準備でもしていたのだろうか。
彼はすたすたと窓の方へ歩くと、鍵を開けて風を中へ招いた。
微風を孕んで、金盞花色がふわりと揺れる。
満足気に口元を綻ばせると、彼は此方に目線を戻した。
「朝飯出来てるけど、どうする? キツイなら無理しなくても──」
予想通りだったようだ。
私を見上げる昊色と目が合う。
其処に浮かんでいるのは、其れこそ天のように分かりやすい慈しみ。
其れを見て、私は自分を恥じた。
(幻、だなんて。薄情者はどっちだか)
そうだ、幻なんかじゃない。
自分自身で言葉を継いで、繋いだ核と核を、現実と言わずしてなんと呼ぼう。
「太宰?」
もう。憎たらしくも惹かれる此の声が、姿が。
愛おしくて堪らない。
私は吸い寄せられるように其の首と腰に手を伸ばし、自分の方に引き寄せた。
中也は僅かに肩を跳ねさせる。
「!? ……如何した」
ほら、今の君の声には、純粋過ぎる心配が現れている。
「何でもないよ」
只、したかっただけ。
そう答えれば僅かに憂いを残しながらも、心配の色は拭い去られていくのだから、いじらしい。
素直で、単純で、優しい。
捻くれた私よりも、遥かに光が似合うとは思う。
けれど、それ以上に、夜を纏う君が好ましいから。
そして私は、夜を纏うことはもうしないことにしたから。
生きる世界が違う故に、明日見る世界は違う物になる。
けれど、夜も光もない今日という日は、どうか。
ゆるりと、過ごそう。
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太中:今日は【たまにはゆっくり/ぶつかり合うのも仲良しだから】をテーマに、かいてみませんか?
でした!
眠り姫です!
“たまにはゆっくり”を使いました。
中也さんの髪の色、金盞花と言ったり、鉛丹色と言ったりしてますが、其の中間ぐらいを思っています。
金盞花はシワスさんの中也さん、鉛丹色は原作絵中也さん(10周年絵を目安に)の少し濃いめくらいです。
色んな髪の色がありすぎて……。光の加減でどうにかなってる説で、どうか。
ついでに言うと、中也さんの目の色は昊色と言っています。大体そうな筈。もしかしたら文脈によっては宝石に例えたりするかもですけれど。
ちなみに、同じ青目の織田作さんは、思慮深い海の色だと言う認識でいます。小説では鳶色ですけど、青目が好きなので……
と言うか本文の文字数が1429で、下3桁が中也さんバースデイ……!
では、ここまで読んでくれたあなたに、精一杯の感謝を!