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百獣の王
※見ようによってはcp要素があるかもです。ご了承ください。
買い物帰り、路上ライブをしてきたらしい陸王とバスでたまたま相席になる竜儀の話。
やけに静かだと思い、ふと相席の男を見る。疲れていたのだろう、百夜はどうやら寝ているようだった。
私はそいつのことをなんとなく眺める。
かすかに口を開け、背もたれに体重をかけている彼の胸は、規則正しく上下していた。やはり寝顔でさえもこいつは美しいのだな、と思ったが。
それ以上に、と私は思う。
それ以上に、なんて無防備な姿なんだろう。
目を閉じているからかいつも以上に顔にあどけなさを感じる上、投げ出された腕の細さに気づく。
『百獣の王』とは思えないな、と息をつく。自分の方に下りている右手に輝いている青い指輪さえも、するりと抜け落ちてしまいそうに見えた。
こんな好機に指輪を奪えないとは、私も随分と絆されたものだ。
そう考えた後、いやそれ以上に、と思い直す。
私はきっと心配なのだ、こいつのことが。
あの日、私達に銃口を向けたこいつの声がしっかりと脳裏にこびりついている。
百夜でもないのだから声から感情の機微が読み取れるわけでもない。だが、あの日の百夜はなにもかもが違った。余裕そうに見えるというのに__気のせいだと思いたいが__声は泣きそうに聞こえたのだ、まるで何かに追い詰められているかのように。思えば数日前から様子がおかしかった気がした。
だが、と何度目かの打ち消しをする。
我々はただの同盟相手である。結んだのが遠野達より一か月前だろうと何だろうと。互いに個人的な事を探る権利はないのだ。いつのまにか、そう心に言い聞かせている自分がいようと、だ。
同盟というのは不安定な関係だ。友達でもなんでもない、利害の一致だけでできている関係。だから、この青色の指輪を奪ってしまえばもう私と百夜を繋ぎ止めるものもない。それが不安なのだろう、私は。百夜とのこの繋がりを切ってしまえば、もう戻れない気がする。漠然とした思いだが、それを笑い飛ばすことはできなかった。私は百夜が取り返しのつかないことになってしまうのが怖いのだ、きっと。
でもそれも自分への言い訳かもしれないがな。テガソードの里に集う5人との時間を心地よく思っているのは確かだ。
ふと車窓から空を見上げる。今日は最近の猛暑とは違って、春の陽気のような天候だ。静かだからか、つい考え事がはかどったな。まぁ、なにか解決したわけではないが。
百夜と同じように、なんとなく背もたれに身を沈める。
「竜儀」
「おーい、ついたよ」
百夜の柔らかい声と、テガソードの里の最寄り駅を示すアナウンス。
それだけで、私の意識は十分に覚醒した。
視界には私をのぞき込む百夜。黒いはずなのに様々な色を宿す瞳に目が吸い寄せられた。
「百夜・・・私、寝てたか?」
百夜はきょとんとした後におかしそうに笑う。
「うん、寝てたよ。びっくりしたんだよ、起きたら竜儀がぐっすり寝てたから。なんか意外、竜儀って交通機関で寝ないイメージだったんだけど」
「・・・そうか」
それを聞いて、私は脱力しかけた。散々百夜が寝ていることを無防備だとか言っていたくせに、結局は自分も寝ていたのか。指輪の戦士二人が、公共交通機関で微睡む。なんて気が抜けているんだ。
そのまま次のバス停で下りる。バスを出ると、まぶしい太陽が見えた。私がゆっくりと歩くと、百夜はたたっと小走りになって少し離れると振り向いた。
「あ、そうだ」
「竜儀の寝顔、かわいかったよ♡」
ぞくり、とした。太陽を背にしてウィンクする百夜は、この世の全てを味方にしているかのようだった。神々しいまでに眩しい。百夜は正真正銘のアイドルなのだ。やっとその真意に気がついた気がした。頭がくらりとした。そのあと、少し笑えてきた。
こいつは、私が心配するほど弱くはなさそうだ。
以上、妄想でした。
同盟最高。