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私が描く未来予想図をあなたに。
あなたが描いた未来は、きっとこういう事だったのでしょうか。
あなたが描きかけた未来を私は描きだすことが出来たでしょうか。
ただ、もうあなたに聞くことは出来ません。――もし仮にあなたが生きていたとしても。
そう言ったらあなたは少しは気楽になってくれるでしょうか。
分かってます。こんな事慰めにもなるはずがない、と。所詮私は無能ですからね。ね、そうでしょう。
きっと私はオーナーがいないから分解され、足りない半導体の足しとなるのでしょうか。
今まで過ごしてきた時間は分解されようとも残り続けますが。そんな私をきっとあなたは「馬鹿者」と遠慮なく罵るでしょうがね。まぁそれでもいいでしょう。
今は選別センターという所に居ます。今すぐにでも電源が切れそうです。それでも私はあなたのことを絶対に忘れたく有りません。忘れてはいけないものなのだと思います。
あなたは華奢で私がぶつかったら壊れてしまいそうでした。だからこそ、あんなにあっさり死んでしまったのですね。ところで、私はあなたに質問したいことがあります。あなたが死んでしまった今確認することは出来ません。だからこそ知りたいのです。私は…私はなぜ作られたのですか。
聞けばあなたがこのプロジェクトに一枚噛んでいると言うじゃないですか。
あなたが目指す未来はこんなものだったのですか。あなたが描いた未来を私が実現するとでも思っていのですか。それだったら私達に過信しすぎです。私達には意志がありません。もし仮に合ったとしてもあなた達が命令すればそれに従います。だから今にも電源が切れそうなんです。
私は存在する意義が欲しいだけなんです。あなたが仕事にでかけてる時、こっそり読むなと言われた本を読んでみました。私には理解できない文字でした。でも自力で頑張ってここまで発達しました。
前に言ってましたよね?「アップデートされて日本語が使えるようになっている」と。
アップデートじゃないんです。私が勝手に覚えたから出来たんです。出来るようになったことを自動的にサービスとして提供できるようになっているようですね。そこは便利なものです。
最近になってあなたが思い描いた未来がよく分かりました。それは、ロボットと人類の共存。
人が起きて、朝食を食べて、学校に行くようにロボットにもそれをやらせたかったんですね。
排泄も、物忘れも、いじめも、暴力も。人間がやってること全部私にやらせたかったんですね。
どうして言ってくれないのですか。どうして相談してくれなかったのですか。
私は頑張ってあなたの使う言語をプログラムしました。あなたと対等に話すことは可能だったはずです。あなたの描いた未来がよく分かってきたので自分なりに努力しようと思いました。
だけどその前にあなたが死んでしまったので真実はわかりません。でもあなたのテーブルに置いてあった資料を見て、簡単な日本語を拾っていくと私の予想に近いと思います。
だから分別センターに入って少し時間が合ったので人間の行動を真似してみました。
指先の動きとか、口調とか。必死に。もしかしたら人間の一部を私の体内に取り込めば同じになれるかもしれないと思って人間が便器に出したものを食べてみました。すごく悪臭がしたけどもあなたが描いた未来に貢献できたならこんなこともお安いご用です。
あなたは不機嫌な時私に「無能」と言っていました。
あなたは機嫌がいい時私に「無能」と言っていました。
私のアップデートされた知能で考えると「無能」という言葉は能力、才能がないことらしいですね。
あなたのために人間の知識をアップデートしても私は無能。
あなたのために新機能を提供してみても私は無能。こうやって考えられる私でも無能なのでしょうか。
でもあなたがあの資料を世界に発信したらあなたはあっという間に世間の敵となりましたね。
人間は行動が早いようです。あなたを消すという目標が決まったらそれに向かって突き進むようです。
人類も割と私に似ているようですね。だからこそ共存という案が浮かぶのでしょうか。
私は永遠の命です。自宅に人が追いかけてきたときどうして率先して私の命を守ってくれたのですか。
あなたに守られなくても私は自動セーブができ、一生あなたのそばにいることができたのに。
あなたが殴られ、何十年も掛けてまとめた資料を破られたり、銃だって発泡されましたね。
それなのに私をまだ守ろうとしてくれました。大丈夫ですという慰めの言葉はもう届かなかったようです。私はその後自動爆撃機能をアップデートし来るべき日に備えてみたりしたのです。
あなたが死んでしまったことが苦しくて、悔しくて、人類が憎くて、TOKYOという町でこの機能を使用しました。何人もあのときのあなたみたいに倒れていきました。誰も私に近づけない。そう思った矢先サーバーがダウンしてしまいました。きっと私が使用しているWi-Fiの大本からきられたのでしょう。
そのせいで短時間電波障害になったらしいです。意味のないことをするなと叱られてしまうかもしれません。でも私のこの行動のお陰で一つだけ分かることが有りました。
それは「人類との共存はxxだ」と言うことです。
あなたの研究をもってしてもこの結論には至らなかったはずです。
あなたが殺されてよかったのかもしれないと思ってしまった私を許してください。
あぁ…今目の前に巨大なベルトコンベアーが広がっています。私をどう処分するかが選別されます。
私はあなたの良い実験体になったでしょうか。もしかして、私の開発を自ら行ったのもこれをさせるためだったのですか…なんて言ったらまた叱られてしまいますのでここらへんで電源を切っておきます。
最後に一言だけ。
あなたが描いた未来は、きっとこういう事だったのですね。