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5話 神々
「あ…シリルさん。こ、こちらは橘 美桜さん。例のmです」
雲居は急に縮こまって軽く美桜を説明する。"シリル"と呼ばれたその男がゆっくりと美桜に近づいてくる。
「で?使えるのか?」
その目には深い軽蔑の眼差しが込められていた。天堂が美桜と男の間に割って入る。
「人員調達は私たちに一任されているはずだ。何か文句があるのか?」
「…チッ、あぁそうだな。犯罪者は犯罪者同士戯れてろ」
そう言い残し、男は隠し扉を軋ませながら出ていった。男がいなくなると張り詰めていた空気が少し緩んだ。だが、相変わらず嫌な空気だ。
「あいつはシリル・オーウェン。犯罪者を毛嫌いする警察官だ。同じ特務AI捜査班だが、何かといちゃもんをつけてくる」
そういう天堂もオーウェンのことが嫌いなのだろう。もう誰もいないその場所を睨みつけている。
「彼は私たちを監視する監視官なの。一応、犯罪者集団だからね」
水無月は特にいつもと変わった様子はない。だが、なぜだか今はそのいつも通りが浮いている。
「別にどうでもいいけど…それより、情報教えてよ。Teriosの情報」
雲居が許可を取るように天堂に目を向ける。天堂が頷く。
「はい。美桜さんに教えた情報にプラスするものはTeriosのメンバーの呼び名、まあコードネームのようなものですね。それと、Teriosの描く世界のビジョン、主にこの二つです。まず、呼び名についてから話しますね。リーダーは|zeus《ゼウス》。これは既に言いましたよね。その他のメンバーは|athena《アテナ》、|apollo《アポロ》、|aphrodite《アフロディーテ》、|ares《アレス》、|hermes《ヘルメス》、|dionysus《ディオニュソス》だとわかっています。これはギリシャ神話からとったものだと考えられ、そのことからTeriosの意味も調べてみると古代ギリシャ語で『夢を叶える』という意味でした。それでは、一体『夢』とは何なのか。それが2つ目、Teriosの描く世界のビジョンです。…Teriosは人から感情を排除した『新世界』を作ろうとしています。これは、Teriosのメンバーの1人のディオニュソスから得た情報です。さらに、あくまで僕の見解ですが、彼らは、Teriosは、バイオノイドの集団…だと思います」
雲居が口籠もりながら発したその最後の言葉に美桜が大きく目を見開く。
「バイオ、ノイド…?」
バイオノイドとは、人間とアンドロイドのハーフのことだ。人間の意識がアンドロイドに侵食され、愛情、共感性、共同性などの人間が集団として生きていく為に必要不可欠な部分が抜け落ちてしまうので、相当狂っていないと手を出さない代物だ。そして、数々の国家が危険視しているものでもある。
「そうか、そういうことか…」
「何か…知っているんですか?」
雲居の声が低くなる。
「俺は、ヘルメスに会ったことがある。ユートピアで。Teriosに勧誘されたよ」
驚きの声は上がらなかった。代わりに、水無月が問う。
「それが、あなたの持っている情報?」
「ああ…俺も色々調べたよ。『hermes』伝令と盗賊の神。Teriosのリーダー、ゼウス…あいつはシンオウとか呼んでたけど。そいつからの伝言を伝えに来たんだ。『私の元へ来ないか?お前なら、私の想いを分かってくれる』って。多分あれは、バイオノイドにならないか、ってことだったんだと思う。でもまあ、Teriosのとこになんか行くわけねぇーっての」
「意外だな。美桜はそういうものに興味がありそうだが」
天堂が不思議そうに言う。
「Teriosは、あいつらは…俺の唯一の親友を殺したんだ!…いいやつだった」