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君に、恋する。(4)
私、菜乃葉。
「杉本 蓮」くんに恋をした小5女子。
少し前、ライバルの杏ちゃんが、杉本くんを校舎裏に呼び出したことを知ってしまったんだ。
「誰にも見せないでね」と杏ちゃんが言っていた、あのメモ用紙。
見るつもりはなかったのに。
罪悪感に埋まっている私の心をなぐさめる。
それに、友達にはごまかしてしまったし…
これからどうしよう…かな。
私は頭の中でぐるぐると考えを巡らせた。
さすがに、|後を追う《尾行する》ことはできないし…
かと言って、杉本くんが杏ちゃんを振ってほしいと思うと、杏ちゃんを傷つけるのと同じようなものだし…
___実は、私と杏ちゃんは、小2まで、大親友だったんだ。
つまり、元親友、ってこと。
でも小3になるときのクラス替えで、クラスが分かれて、小4でも分かれちゃったんだ。
それで、小5になってまた同じクラスになれたけど、ほとんど話さなくなってて。
そしてさらに、ライバルということを知ってしまったの。
迷っているうちに、いつの間にか放課後になっていた。
よくわからなくなりながらも、祈りながら、教室で1人残って杏ちゃんを待った。
チクタクチクタク…
時計の針が音を立てる以外、全てが静かだった。
私の心は静けさに縛り付けられる。
すると。
少し経ったとき、泣きながら杏ちゃんが教室に入ってきた。
あっ…振られちゃった、のかな?
そしてしばらく沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、杏ちゃんだった。
「う…うぅっ。ひっく、ひぐ…あ、あの…ずびっ、菜乃葉ちゃん、っ、い、居た…の…?うゎぁん…」
「え、えと…杏ちゃん。だ、大丈夫…?」
「う、うぅっ…うぁ…」
「実はね、私、杏ちゃんのこと、待ってたんだ」
さすがにあのメモ用紙を見てしまったことを隠してはいられなかった。
「ぅ、え?」
杏ちゃんも驚いたような顔だ。
涙の筋を顔に付けたまま。
私は、言った。
「私ね。あのメモ用紙、杉本くんが落としたとき、実は見ちゃったんだ。ごめんね。今まで隠してて。でも、杏ちゃんなら元親友なんだから、言っちゃっても大丈夫だと思って」
「う、うぅっ、ぁ。」
「でも、告白…失敗しちゃったんだね。振られちゃったんだね。大丈夫、大丈夫。」
「う、ひぐっ…あ、あのね、なんか『杏とは、友達で居たいんだ。ごめんけど、杏とは付き合えない』って…ずび、い、言われたの…」
「そうなんだね。辛かったね…勇気、出したんだね。でも、きっとその言葉、[もう一緒にいるのやめる]ってのじゃなくて、[友達ならいいよ]ってことじゃない…?だから、大丈夫。完全に関われなくなったわけじゃないと思う。信じて。私は言葉を掛けることしかできないけど、ここから、見守ってるよ…」
「う、うぅ…うん!」
これは本当にライバル同士なのか?という会話を交わして、私たちは教室を離れ、別れた。
杏ちゃん。どうか、落ち込まないでね。
私は、杏ちゃんに何も起こらないよう祈りながら、家路に着いた。