公開中
【歌パロ】シャンティ
「クビね、キミ。」
俺の人生は最初からこうなる運命だったのだろうか。
大学を卒業して、中小企業に就職。そこが後にブラックだとわかり、安い給料で長時間の労働を強いられた。
その後は経営がうまくいかなくなり、俺のような新入社員はクビを切られた。
そして、このザマだ。
「何処だ…ここ」
なんの気力もなく、歩いていると、ふと見知らぬ土地へたどり着いた。
スマホを取り出し、マップアプリを開くと、そこはここらでは有名な中華街だった。
「…小籠包食うか」
空腹と好奇心に耐えかね、俺はフラフラとチャイナタウンに足を踏み入れた。
俺の本当の地獄はここから始まったんだろうな。
---
チャイナタウンに足を踏み入れ、少しの時間がたった。
しかし、中華屋は一向に見つからず、俺はとぼとぼ歩いていた。
すると、突然
「よぉ。そこの兄ちゃん」
後ろから低い声がした。
「さっきから顔色悪いで?なんか辛いことあったんか?」
関西なまりの声の男は、俺の方をみて笑った。
「っ、はい」
俺はその男に全てを包み隠さず話した。就職した企業がブラックだったこと。クビになったこと。みんな話した。
「ほぉーん。そりゃ酷ぇ話だ」
男は俺の話を真剣に聞いてくれた。俺の力になるとさえも言ってくれた。
「そや。いいもんやるわ」
といって男は黒の包み紙に包まれた棒付きのアメを取り出した。
「これはなんですか」
俺が不意に聞くと、
「んー。このアメちゃんはな、辛いことも悲しいこともぜーんぶ、みーんな忘れさせてくれるんやで。兄ちゃん辛いことあったんやろ?これ舐めて元気だしや」
と俺にアメを差し出した。
「お、お金は…」
「ん?金?また今度でええで」
男はそう言って、手をヒラヒラ振りながら
「俺はチャイナタウンのシャンティ。あっこの酒場で俺ん名前ゆうたら一発やで。ほな、またな」
そして男はたちまち去っていった。
俺に残されたのは渡されたアメだけだった。
これを舐めてもう忘れてしまおう。
そんな安直な考えで俺はアメの包みをとった。
アメを口に放り入れたとたん、俺の目の前は真っ暗になった。
---
「シャンティ?ああ、アイツならそこら辺ふらついてるだろうよ」
数日後。俺はあのアメの味が忘れられなかった。あれが欲しい。もっと、もっと欲しい。
そんな思いで教えられた酒場の店主に聞き込んだ。
「そうですか。ありがとうごさいます」
といって立ち去ろうとした時だった。
「おーこの前の兄ちゃんやんか。俺になんか用か?」
男が現れて、いつの間にか店主は厨房に消えていった。
「俺のあげたアメどーやった?ええやろ?」
男はそうニヤッと笑って、俺を見た。
俺は言葉が出ない。
「そや、お代の方はこんくらいや」
そう言って、酒場のカウンターにあった紙をとって何かを書き込み、俺に渡した。
「ごっ50万!?そんな、お、俺、こんな額払えないです!」
まさかの金額に俺はたじろく。
でも、俺はあのアメを心の底から欲している。
「払えん?ほなしゃーないな。しっかりお代は払ってもらうで?」
「兄ちゃん、キミにピッタリの仕事があるんや。クビ切られたゆーとったろ?」
「しっかりアメちゃん代分、働いてもらうで?ほな、こっちについてきーや」
俺は、蟻地獄へ自ら足を踏み入れていった。
---
「ここは…」
男についていくとそこには沢山の人がいた。
「ここはな、賭博場…つまりカジノや。モチロン合法やで?コイツ目当ての客もおるさかい、酒場のおっちゃんも俺に強くモノ言えへんのw」
老若男女、様々な人がいる。でもなんだか表情が暗い。
「さてと、ここでキミにしてもらいたいんは、コイツをここで売って欲しいんや」
と言って、数日前俺に渡したものと同じものを渡した。
「俺がやる給料はここで2倍3倍にしてええし、貯めて50万完済してここから出ていってもええで。渡したやつは勝手に食うなよ?欲しいならツケといたる。ま、うまくやりや」
手をヒラヒラ振りながら男は去っていった。
「早くここら出よう」
なんとなく、ここにいてはいけない気がする。
そのときだけは、俺はそう強く思っていた。
---
「なぁ~兄ちゃん?もうツケすごいことなってんで?」
「臓器とか売った方がええんちゃう?兄ちゃん健康そうやし、高い値ぇつくで?」
「…そうかいな。ほな俺がいいとこ教えたる。ついてきや」
---
「ほぉーん。もっと強ぇえアメちゃん欲しいん?」
「…寄越せ"!!」
「ほな、倍労働せんといかへんで?哀れやなぁ~兄ちゃん。ま、ヤク漬けの頭じゃそんなことも考えきれねぇーか」
「悪りぃけどこれ以上ツケれねーんだよ、兄ちゃん。じゃ、あとは残りの臓器で払ってもらおーか。ま、ヤクまみれのきたねぇ臓器じゃ足しにならねーかもしれねーけど、ないよりマシだろ」
シャンティ。それは平和や至福を意味する。
死に際の頭で俺は。
あのアメで手に入る一瞬の快楽を欲していたんだと。
そしてあの男は俺を最初からバラす目的だったのだと。
全て悟った。
何もかも遅かった。
---
「よぉ。なんか辛気臭い顔しとるなぁ嬢ちゃん」
セルフレーディング怖かったんで15にしときました(ビビり)