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変身少女
ハイリスクレッド
闘強少女道璃夢 7
レイナ・フブキ
☆
無機質に光っている処置台の上に広げられた野生の黒いバッファローレザー。
その上に広げられた野生の隼の銀色の羽毛。
その上に真っ白と、言うより透き通っていると表したほうが正確な一人の少女のが生れたままの姿で横たえられている。
その少女を野生の隼の銀色の羽毛に埋もれさせる。
野生の隼の銀色の羽毛に埋もれた少女を野生の黒いバッファローレザーで包んでしまう。
野生の黒いバッファローレザーで包まれた少女の胸部、腹部、右足首、左足首、右手首、左手首、頭部、額のあたりをまで身体中に太めの白いベルトが巻かれている。
腰のあたりには、縦に10センチ、横に20センチ程の大きさの四角いバックルが付いたさらに太めで白いベルトが巻かれ無機質に光っている処置台に固定されている。
四角いバックルからは直径5センチ程の太さの4本の白い電気コードの様な物が四角いバックルの四つ角それぞれに伸び、処置台の側面へと繋がっている。
さらに四角いバックルから3センチ程の太さの白い電気コードの様な物は胸部、腹部、右足首、左足首、右手首、左手首、頭部、額のあたりへと伸び接続されている。
☆
少女の名は、風吹 麗七(フブキ レイナ)
少女は、十四歳の12月24日、クリスマスイヴの夜にサンタクロースという、父親からプレゼントを贈られ、母親の手作りのクリスマスケーキや美味しい料理を食べ幸せな時間を過ごすはずだった。
しかし、そこに突然、現れた謎の七人の男達によってその幸せな時間は訪れなかった。
謎の男達の中の一人が言葉を発した。
『 私の名は、オーガ大佐 』
そう名乗った男は見栄を切る様に顔を歪めた。
そして言葉を続けた。
『 我々は、悪の秘密結社サターン・クロスだ、遺伝子人工融合の世界的権威者である風吹 純一郎の身柄を拘束にきた 』
「な、何のためだ」
純一郎は声を荒らげながら、妻と娘を隠すように自分の後ろへまわらせた。
『 我々、サターン・クロスのために遺伝子人工融合による最凶改造人間を作り出していただくためだ 』
「さ、最凶の改造人間だって」
『 猛獣、猛毒獣と凶悪な人間の遺伝子人工融合による最凶改造人間を世の中に送り込み惨殺と殺戮の恐怖で世界を支配する 』
「なに、そんな事が出きる訳がないだろう」
『 それは、我々、サターン・クロスの申し出を断ると言う事かな 』
「あたり前だ」
純一郎は気丈に言い返した。
『 そうか、ならば考え直させてやろう 』
そう言うと、オーガ大佐は凶悪な表情で傍らにいた男に目配せをした。
目配せを受けた男は、純一郎を押し退け、後ろに隠れていた妻の腕を掴み純一郎の目の前へ引きずり出す。
純一郎の妻であり、麗七の母親である由紀子である。
男は由紀子と純一郎を向き合わせる。
瞬間、由紀子の背後に鈍い光が一閃疾った。
由紀子の顔が突然ゆがみ声にならない呻きを上げた。
由紀子が純一郎の前に、崩れ落ちる。
オーガ大佐の右手には鈍い光を放つサーベルが握られていた。
右肩口から左脇腹へ袈裟がけに由紀子の背中が切り裂かれいた。
『 どうだ風吹 純一郎博士、我々に協力するかね 』
オーガ大佐が問いかける。
純一郎は床に膝をつき由紀子にそっと触れる。
『 まだ協力が出来ないと言うならば、次は娘を斬り捨てる 』
純一郎は顔を上げ懇願した。
「頼む、娘には手を出さないでくれ」
『 いいとも、我々、サターン・クロスに協力するのならば 』
「わかった」
苦渋の思いで純一郎は返事をした。
麗七は突然の乱入者と、母親が殺された事により放心状態で床に座り込んでいる。
純一郎はサターン・クロスの二人の男達に拘束され家の外へと連れ出された。
男達が純一郎を家の方へ向き直らせる。
オーガ大佐が右腕を上げ合図する。
すると他の四人の男達が家に火を放った。
「な、なにをバカな娘が中に」
怒鳴り声を上げた純一郎であったが、同時に、口と鼻に布があてられ闇の中へ引き込まれた。
☆
朦朧とする意識の中で純一郎は目を覚ました。
灰色の天井が目に入る。
目だけで周囲を伺いながら意識を目覚めさせゆく。
そしてまた目を閉じる。
瞬間フラッシュバックがおき燃えさかる自分の家の様子が蘇った。
ハッと、いきなり上半身を起こし今一度、辺りを伺いながら顔を振る。
ど、何処だ、ここは。
見覚えのない部屋の様子が目に入る。
天井は灰色、四方の壁も灰色、床も灰色。
金属製の枠がむき出しのベッドに寝かされていた自分がいる。
突然、声が聞こえてくる。
『 お目覚めかな、風吹博士 』
純一郎は辺りを見まわしながら声を出した。
「その声は、オーガ大佐か、娘はどうなった、約束が違うだろ」
『 そうかな、我々は娘には手出しはしていない、家に火を放っただけだ 』
その言いように、ぐぐっ、と純一郎は拳を強く握り、奥歯を噛み締め俯いた。
『 そこは、風吹博士、あなたの居住スペースだくつろいでくれたまえ 』
「娘だ、娘の安否確認が出来なければ協力はしない」
純一郎は顔を上げ声を出した。
「頼む、家の様子を見に行かせてくれ。せめて、花だけでもたむけたい」
しばらくの沈黙の後
『 いいだろう、それで協力を惜しまないと誓うなら 』
すると壁の一部が開き二人の男が入ってきた。
純一郎は、一瞬身構えたが男に口と鼻に布をあてられ再び闇の中へ引き込まれた。
目ざめた純一郎はワンボックスカーの中にいた。
運転席にも助手席にも誰もいなかった。
座席の脇には花束が置かれている。
窓の外に目を移すと、そこは焼け落ちた純一郎の家であった。
ワンボックスカーのスライドドアを開け花束を左手に持ち、純一郎は焼け落ちた家の前に立ちただ呆然と黒焦げの辺りを見つめた。
ぼんやりと思いをめぐらす。
妻と娘で囲んだ食卓、研究のための時間をも忘れた書斎。
くつろぎを与えてくれたリビング。
突然、サターン・クロスが現れ奪われ、平穏な妻と娘との生活を奪い去った。
ふっとそんな思いが止まった。
リビングであったろう焼け跡に僅かに盛り上がっている場所がある。
純一郎は、その場所へゆっくりと近づく。
その盛り上がりに向けて、由紀子…と純一郎はそぉ呟いた。
その場所に膝をつき右手を伸ばし、その盛り上がりにそっと触れた。
だか由紀子に見えた黒焦げの盛り上がりは音も無く崩れ灰となった。
なんてことだ亡骸も残らないなんて。
純一郎は唇を噛み締めた。
だがその灰となった由紀子の下にもうひとつの盛り上がりがある事に気付いた。
もうひとつの盛り上がりに右手を伸ばして触れてみる。
ドクッ、ドクッ、僅だが鼓動が純一郎の右手に伝わってくる。
まさか、麗七か、生きているのか。
純一郎は焦る気持ちを抑えながら黒焦げになった麗七の全身をなぞった。
そして、純一郎は着ていたコートを脱ぎ、その場に広げ、麗七の身体を優しく抱き上げ、コートの上に乗せ包み込んだ。
コートに包んだ麗七を抱き上げ、純一郎はワンボックスカーへと戻った。
いつの間にか運転席と助手席にサターン・クロスの二人の男が座っていた。
純一郎は男達に声をかけた。
「娘の亡骸を持ち帰らせてくれ。私の居住スペースで供養のために置かせてくれ」
運転席の男が答える。
『 それで我々への協力を誓うのか 』
「誓う。私の出きる事は全てやらしてもらう」
『 よし、それなら構わない 』
純一郎はワンボックスカーに乗り込みコートに包まれた麗七を静かに後部座席へ横たえた。
助手席の男が振り向き布を純一郎に向けて突き出してくる。
「大丈夫だ、信用しろ。私は、もう逃げも隠れもしない」
助手席の男は運転席の男に目を合わせ頷き合うと布を持つ腕を引っ込めた。
そして、ワンボックスカーは走り出した。
☆
純一郎は研究に没頭した。
しかし、それは悪の秘密結社であるサターン・クロスに加担した訳ではなかった。
ただ、サターン・クロスの思惑通りに動物と人間の遺伝子が本当に人工融合できれば、娘の麗七を瀕死の昏睡状態から回復させる事ができるのではないかと考えたからだ。
意識の回復をみせず、生きている鼓動だけで今は生命維持装置だけが頼りになっている。
麗七が蘇生回復し生きるために動物との遺伝子人工融合が必要だと純一郎は考えたのだ。
悪である最凶改造人間を作り出すことになるが、娘の、麗七の現状回復には変えられない思いだった。
研究は一ヶ月が過ぎ基礎設定ができ人体実験を開始した。
ゴリラと人間。
2ヶ月が過ぎ、ライオンと人間。
3ヶ月が過ぎ、トラと人間。
6ヶ月が過ぎ、ワニと人間。
8ヶ月目に掛ろうとしているが、今一歩のところで成功しないでいた。
急がなければと純一郎に焦りが出はじめていた。
もちろん、サターン・クロスのオーガ大佐も苛立ちで落ち着きを無くしていた。
何が足りないのか、純一郎の思考は行き止まっていた。
不意に、純一郎はそんな行き詰まった気分を変えるために外の空気を吸いたいとオーガ大佐に申し出た。
その申し出に苛立っていたオーガ大佐が顔を歪める。
しかし、オーガ大佐は
『私がお伴しよう』と先を歩き始めた。
サターン・クロスのアジト内の通路を何度か曲がり、階段を上り純一郎とオーガ大佐はアジトである建物のテラスに出て並び立ち空を見上げた。
見上げた空の半分は青く晴れている。
半分は黒い曇で覆われている。
「今日は何月何日なんだろう」
純一郎は独り言のように呟いた。
『八月四日、夏だな』 オーガ大佐が独り言のように呟く。
そうしているまにみるみる間に空の全面が黒い雲に覆われ稲光が走り始めた。
続けて雷鳴と同時に突然の豪雨が二人のいるテラスを打ち付け始めた。
二人は慌ててテラスから室内へ戻った。
瞬間、轟音と地響きが起き 、パシュン、と突然闇が訪れる。
停電だ、まずいぞ、人工融合の装置が停止してしまう。
そう叫ぶと純一郎は駆け出した。
オーガ大佐が後を追ってくる。
研究室へ飛び込むと純一郎は自家発電を起動させた。
同時に再び轟音と地響きがした。
研究室内が爆発するように煌めき閃光に包まれる。
落雷と自家発電の起動が重なりショートを起こしたのだ。
だが、しばらくすると、その煌めく閃光が収まりなぜか研究室内が通常の明るさに戻った。
グゴッ、グゴッ、と音が聞こえてくる。 ズズッ、ズズッ、と音が聞こえてくる。
研究室の中央の処置台の上で動き出す物がいる。
まさか、遺伝子人工融合が成功したのか。
純一郎は呟いた。
処置台の上で上半身を起こす改造人間がいる。
☆
キングコブラと人間の遺伝子人工融合が成功し、最凶改造人間第1号が誕生した。
身体を起こしたキングコブラ人間が処置台から降り立つ。
身体、手、腕、脚は人間の姿であるが、頭部と顔面は、キングコブラその物である。
全身は蛇である独特の鱗である。
シューウン、シューウン、と息を漏らしながら、辺りを見回している。
でかしたぞ、風吹博士。
オーガ大佐は賛辞を口にしながらキングコブラ人間に近づいてゆく。
キングコブラ人間がオーガ大佐を睨みつける。
刹那、キングコブラ人間の口が大きく開きオーガ大佐に襲いかかった。
オーガ大佐は、スッと体をかわすとキングコブラ人間の後頭部へ手刀を打ち付けた。
バカモノ。
と一喝するとオーガ大佐は部下達に調教スペースへ連れてゆけと命じる。
部下達が慌ててキングコブラ人間を取り押さえに近づくと悲鳴があがった。
キングコブラ人間は部下の一人に噛みつき、腕を巻きつけ絞め殺していた。
さらにキングコブラ人間が暴れだす。
部下達が次から次へと襲われ倒れてゆき研究室はパニック状態になった。
遺伝子人工融合の成功を目にした純一郎は踵を返して駆け出した。
自分の居住スペースへ駆け込む。
処置台へと近づいてゆく。
麗七、お前の遺伝子人工融合は成功しなかったのか。
呟きながら右手を黒いバッファローレザーに伸ばす。
サターン・クロスに拘束され研究を続けながら密かに麗七の回復のために処置をおこなっていたはずなのに。
無念な思いを噛みしめながら純一郎の右手が麗七を包んだ黒いバッファローレザーに触れてみる。
途端に
ビッキ、ビッキ、音がする。
パッキ、パッキ、音がする。
黒いバッファローレザーに亀裂が入る。
亀裂が長く伸びてゆく。
バサッ、バサッ、と音ともに上半身が現れる。
まるで卵から孵化する様に全身が現れる。
全身黒いバッファローレザーのボディに、両腕は肘から指先まで銀色に、両脚は膝から爪先まで銀色に隼の羽で履いている。
銀色の頭部に紅い目、口元は隼の嘴の様に鋭い形状である。
バッファローと隼の遺伝子が人工融合された麗七の姿であった。
麗七。純一郎が声をかけた。
麗七は静かに頭を振り視線の焦点を合わせるように純一郎に顔を向けた。
お父さん。麗七は静かに声を出した。
純一郎は、大きく頷くと涙を流しながら麗七に近づき優しく抱きしめた。
温かい父の抱擁と温かい涙が、麗七の身体が人間形態に戻してゆく。
白い肌に、長い黒髪の美しかった少女・麗七に戻してゆく。
しかし、再会の感慨に浸っている時間はなかった。
サターン・クロスのアジト内の騒ぎが二人のいるスペースにも近づいていた。
純一郎は生まれたままの姿の麗七に自分のコートを羽織らせた。
「麗七、ここは悪の秘密結社であるサターン・クロスのアジトの中だ、今、ある騒ぎが起きている。この機に乗じて逃げるんだ」
「え、どう言う事」
「詳しい話は後だ、まずは逃げるんだ」
純一郎は麗七の手を取ると居住スペースの外へと出た。
☆
アジト内の通路を右へ左へ走りぬけ純一郎と麗七は階段を駆け上がる。
その背後で声がした。
風吹博士がいないぞ。
博士を探すんだ。
純一郎と麗七はさらに足を速めテラスへと出た。
階段の上り口から足音が聞こえてくる。
「麗七、お前だけでいいから逃げるんだ」
「でも、お父さんはどうするの」
「大丈夫だ、私はここに残る」
そう言うと純一郎は麗七を見つめ言葉を続けた。
「今、お前の身体はバッファローと隼の遺伝子が人工融合されている、キメラ人間なんだ」
えっ、麗七が瞳に驚きを表す。
「瀕死の昏睡状態から蘇生回復させるにはそれしか方法が無かった」
ゴクリ、と麗七の喉がなる。
「しかし、サターン・クロスの改造人間とは違う、お前の心には愛がある、自分で考える頭脳がある」
麗七は自分の手を胸にあて父親の顔を見つめた。
「家に帰るんだ、私の書斎のあった場所に地下室がある、そこにこれからお前が生きてゆくために必要な物がある」
麗七は自分の暮らしていた家に、父親の書斎の下に地下室があるとは知らなかった。
「麗七、両腕に力を込めて大きく広げるんだ」
うん、と頷くき言われるがままに、麗七はその場から一歩、二歩、と後退り両腕を胸の前で交差すると力いっぱい左右に広げた。
えぃ。バサッ、バサッ、と麗七の両腕の内側から体側にかけて翼が現れる。
「翔べ。翔ぶんだ」
父親の声に反応し麗七は両膝を軽く曲げ空に向けジャンプする。
グゥン、と身体が舞い上がる。
バサッ、と翼をひと振りするとさらに高く舞い上がる。
「身体、全身をリラックスさせるんだ」
空を舞う、麗七に向けて父と声をかける。
スゥッ、と息を軽く吸い、はぁ、と息を軽く吐く。
フワッ、と風が吹くと麗七の身体が無重力の様に宙を舞う。
ドカッ、ドカッ、とオーガ大佐と部下達が階段を駆け上がり、テラスに辿り着き純一郎の周りを取り囲んだ。
『 逃げれはしないぞ、風吹博士 』
オーガ大佐が憎々しげに問いかける。
「もちろん、逃げはしない私は」
『 では、何故こんなところ来ている 』
オーガ大佐は腰にさげていたサーベルを抜き純一郎に突き付けた。
その様子を上空から見下ろしていた麗七の背筋にゾンッと怒りの気持ちが走る。
鈍い光を放つあのサーベルで母親の命は無残に絶たれた。
そして、今、父親にそのサーベルが向けられている。
麗七の怒りの気持ちが一瞬で沸点に達する。
ぐぐっ、ぐぐっ、と麗七の身体が、全身が軋み、うねり、変身し始める。
全身に力を込めて軋みに、うねりに麗七は耐える。
フンッ、と唐突に全身の力みが開放される。
黒いボディに銀色の手、脚、紅い目が鋭く煌めく。
麗七が、バッファローと隼のキメラ人間へ完全変身した。
☆
完全変身した麗七がオーガ大佐をめがけて頭から急降下する。
ヒュゥー、と隼の翼が空を切り、風を切る。
麗七が急降下してくる音に、ふっとオーガ大佐が顔を上げた。
天より舞落ちてくる銀色の煌めきにオーガ大佐が目をみひらき驚きを表す。
オーガ大佐の間近で麗七の身体が急反転し右足が突き出される。
バシュン、とオーガ大佐の右腕に右足の裏が激突し、手にしていたサーベルが吹き飛ばされる。
さらに激突の勢いでオーガ大佐の態勢が崩れ左側へ倒れる。
麗七は翼をバサッとひと振りし宙に浮き止まりオーガ大佐を睨みつけた。
倒れたままでオーガ大佐が屈辱の表情の顔を上げる。
麗七とオーガ大佐の視線がぶつかり合う。
少しの間を置いてオーガ大佐声を出す。
『 な、何者だ、貴様は 』
麗七も少しの間を置いて声を出す。
「レイナ、キメラ人間。レイナ・フブキ」
『 キメラ人間だと 』
独り言のように言うとオーガ大佐は純一郎に視線を移し苦々しく言った。
『 風吹博士、貴様の仕業だな 』
オーガ大佐は態勢を整えながら、転がったサーベルへと手を伸ばした。
それを見たレイナは父親の頭上から声をかけた。
「お父さん、掴まって、私の足首に」
純一郎はレイナを見上げながら頷くと両腕を上へ伸ばし足首を掴んだ。
レイナが翼をひと振りすると純一郎の身体がフワリと浮き上がる。
さらに翼を振る。
力を込めてさらに翼を振る。
オーガ大佐がサーベルを振り回しながら怒鳴り声をあげているが、すでに高く舞い上がったレイナは無視をして飛び去っていた。
☆
バサッバサッ、と羽音をさせながらレイナが舞い降りてくる。
純一郎の両足が地面に着く。
続けてレイナの両足が地面に着く。
ふぅー、とレイナが大きく息を吐くと変身形態から開放されてゆく。
生まれたままの姿に父親のコートを羽織ったままの自分の姿に麗七の顔が赤らむ。
純一郎と麗七の前には焼け落ちて基礎だけがむき出しの家の跡があった。
純一郎が静かに歩き出し自分の書斎のあった場所へ行き、その場に膝まずき何かをまさぐり始めた。
裸足のままの麗七は恐る恐る足を進め、父親へと近づいた。
しかし、キメラ人間である麗七の足の裏には痛みも違和感も感じられなかった。
純一郎が、グイッと何かを引っ張ると地面の一箇所が重々しい音をさせながらスライドしてゆく。
やがてスライドが止まると、地下室へとつながる階段が見えてきた。
「おいで麗七」
麗七に言葉をかけ純一郎が階段を降り始めた。
素直に麗七も父親に続いて階段を降り地下室へと足を踏み入れた。
地下室は父親の極秘研究室の様だった。
さらに奥には金庫が見えている。
純一郎は金庫に近づきおもむろに扉を開ける。
そこにあったのは、赤と白の包み紙に大きなリボンで飾られたクリスマスプレゼントだった。
純一郎はクリスマスプレゼントを手に取り麗七に向かって差し出しながら言った。
「ゴメンな、ずいぶん遅れたクリスマスプレゼントで」
麗七は瞳から涙を流しながら頭を振り感謝を述べた。
「うぅん、ありがとう、お父さん」
「うん、母さんと父さんからだ」
お母さん、と呟きながら麗七は父親に抱きつき嗚咽した。
純一郎は麗七を抱きしめ背中を、ポンポンと軽く打った。
「そうだ、今日は八月四日なんだ。麗七の、十五歳の誕生日だね」
えっ、そうなの。麗七が呟く。
「誕生日プレゼント、買いに行こう」
「わぁ、ありがとう、お父さん」
「洋服が良いよな、全部焼けちゃったからな」
「じゃ、いっぱい買ってもらわなきゃ」
笑顔で麗七と純一郎は歩き始めた。
終り。