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世渡り上手なあの子
⚠️いじめ表現あり
2026/01/07
テレビに、いじめっ子が出ていた。いじめっ子と言っても、中学校の頃だから2年以上前の話だ。今は高校生アイドルをやっているようで、愛嬌のある仕草と可愛らしい声で自己紹介をしている。百瀬かすみ。彼女はそう名乗った。それは私の記憶の名前とは違っていた。違うということがわかるだけで、本名がなんだったかは、覚えていない。
中学校の頃、百瀬かすみは、確か矢田という貧乏な男子生徒をいじめていた。先生のいないところで行われるそれは、殴る蹴るという暴行でもあり、もっと精神的なものでもあった。
百瀬かすみは世渡りがうまかった。愛想の良い笑顔と芯のある口調で先生からの信頼を得、自身の魅力で男子たちを虜にしていた。先生はそもそもクラスのいじめには気づいていなかったが、仮に気づいたとしても、百瀬かすみを疑うようなことはなかっただろう。矢田以外の男子は百瀬かすみの顔や大袈裟なリアクション、どことなく漂う色気にゾッコンで、百瀬かすみはそれを利用して男子たちに矢田をいじめるよう頼んでいた。矢田を殴ったら百瀬かすみに良いことをしてもらえる、という低俗な噂が男子たちの間で広がっていたようだ。本当なのかはわからないが、いじめがなくならなかったことを考えると、多少の何かはあったのだろう。しかしそれはあくまで、百瀬かすみが割に合うと判断した程度のものなのだ。
矢田は背が低く、痩せていた。髪は自分で切っているのかガタガタでボサボサ。性格も暗くて無口だった。友達はいなくて、教室ではいつも自分の席で俯いていた。勉強や運動が得意だったという記憶も、少なくとも私の中にはない。多分、どちらかといえば劣等生だったのだろう。体格もよく声も大きいクラスメイトの男子に抗うことも、誰かに助けを求めることもなく、矢田はただ耐えていた。
私はカップのアイスを食べながら、百瀬かすみが出ているテレビ番組を眺めていた。「いじめについて考える」というテーマの番組だった。百瀬かすみは曖昧な笑みを口元に浮かべ、少し沈んだ声を出した。「私、中学の頃いじめられてたんです。クラスの子に…。」私の家が貧乏だから、と彼女は続けた。そのような過去があると知られているからこの番組に呼ばれたのか、全く初めてのカミングアウトなのか、どちらなのだろう、なんてことをぼんやりと考えた。
百瀬かすみは、やはり世渡りがうまかった。だって百瀬かすみは本当はいじめっ子側だったなんて告発するような奴、矢田以外にはいない。もし矢田がネットか何かに書き込んでも、証拠なんて何も残っていないのだから嘘情報だと流されるだけ。私は食べ終わったアイスのゴミを捨てるため、立ち上がった。
もし、矢田がこの番組を見ていたら、彼はどう思うだろう。何を抱くだろう。答えを知ることはできないけど。
ゴミ箱に、カップを放り込む。
あの時なにもしなかった私が矢田の幸せを願うのは、多分、絶対、違う。
表現をマイルドに。