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最初のセッション、最初の笑顔
バトルが終わった頃には、私の息は完全に上がっていた。
マイクを持ったこともないのに、リズムに合わせて声を出すなんて、まともな神経じゃできない。でも、不思議と楽しかった。
「……っはぁ、はぁ……つ、疲れた……!」
膝に手をついてうなだれる私のそばで、Boyfriendはにこにこと笑っていた。まったく疲れた様子はなく、あのキラキラした目で私を見てくる。
「やるじゃん! 初めてなのに、結構ノってたじゃん!」
「ノってたっていうか……半分死んでたけどね……」
思わず苦笑して返すと、Boyfriendはにかんだような笑顔を見せた。
「でも、キミ……名前、なんていうの?」
「えっ……あ、私は……#名前#デス...」
「#名前#か、いい名前じゃん! オレは……ま、知ってると思うけど!」
そう言って、彼は得意げに胸を張る。
「Boyfriend、だよ。まぁ、BFでもいいけど!」
たしかに知ってるよ。
何百回もゲームで見てきたし、MODでいろんな彼も見てきた。でも──。
(こうやって話すと、意外と……ちゃんと「生きてる」んだな)
そんな感想が、ふっと頭に浮かんだ。
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その日の夜
その日はなぜか、Girlfriendに頼まれて「BFの練習に付き合ってくれない?」なんて言われた。
夜の街で、音楽に合わせてセッションの真似事をして、気づけば休憩時間。
BFと二人、建物の屋上で夜風に吹かれていた。
「ねぇ、#名前#ってさ……元の世界に帰りたい?」
突然の質問に、少しだけ戸惑った。
「……うん。帰れたらいいな、とは思う。でも、なんか……この世界、変だけど嫌いじゃないよ」
「そっかー」
BFは、夜空を見上げたまま、口の端を少しだけ上げた。
「オレ、なんか嬉しい。
……キミと歌うの、楽しいし。今まで、いろんなヤツと勝負してきたけど……“一緒に”歌いたいって思ったの、初めてかも」
──ドクン、と心臓が鳴った。
さっきまでBPMに合わせて刻んでた鼓動とは、明らかに違う。
これは……まさか。
「え、なに、今の……ずるいよ、BF……」
「え? なにが?」
「……なんでもないっ!」
顔をそらして、星空に視線を逃がす。
まさか、ゲームキャラにこんなふうにドキドキするなんて思ってなかった。
でも──
この“ビート”だけは、ウソじゃなかった。