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海月は淡い木漏れ日に包まれて。Ⅰ
この物語は最後まで行くかなー?
怖い、怖い…来ないで…近づかないで…
「結果はどうなんですか?やっぱり…」
「そうですね。お察しの通り彼女は、
--- 人間恐怖症 ---
です。」
私、夜見海月は人間が怖い。小学2年から6年生の時、両親に虐待を受け続け心の折れる寸前まで行った。さらに今から3か月前、突然鍵の開けっ放しの原因で強盗らしきものが家に入ってきて両親を殺害し、私も命を落とす寸前だった。そこに、親戚がおすそ分けを渡しに家に来たため、窓から殺人犯は逃げ、未だに消息不明であるらしい。親戚が私たちを見つけた時、既に私は人間恐怖症になっていた。発見時は気を失っていたが、病院で目を覚めると病院全体に響き渡るような悲鳴をあげた。自分自身も怖く、鏡は見たくない。医者と名乗る熊太郎さんはキャラメル色のモフモフの毛並みに白衣を着ている可愛いくまさん。普段は1週間に1度に診察に来る。ちょっと老いぼれている。他には私の担当看護師の猫子(ねこ)さん。顔がアメリカンショートヘアで柔らかくいい声をしている。えっと、他に言えば、私より先に入院しているお隣の想生君。髪がとにかくさらさらな綺麗な鼠色で、私の1つ上の人。顔はかっこいい狐。身長が私より13㎝高くてスタイルがいい。いつも私に優しくしてくれて、少し特別な印象が時々ある。この3人あたりが私が知ってる人。友達でもある。私は窓に手を添えて、鳥が自由に飛ぶ空を見ていた。ガラガラガラ…するとドアから猫子さんがやってきて言った。
「海月ちゃん。お腹すいてない?」
「大丈夫…やっぱりリンゴが欲しいかな。」
少し考えてから言った。猫子さんはいつも気を遣ってくれる。だからたまに持ってきてもらったものを一緒に食べたり使ったりしてあげる。もう一度ガラガラガラという音が聞こえると、私はベットに寝転んだ。バフンッと音が鳴ると共に、目の周りに短い小さな糸たちがフワフワと浮いた。埃だ。空気中に浮く埃たちを色々観察していたら、またガラガラとドアが開く音がした。猫子さんにしては早いし、熊太郎さんは明後日。ということは…
「海月?いる?」
「いるよ。」
「よかった」と言いながら近づいてくる狐。想生だ。
「暇だからさ、来ちゃった。」
ニコニコオーラを放つ優しい声は照れ臭そうに言った。
「私も暇だったから丁度いいよ。あ、後で猫子さんがリンゴ持ってきてくれるから一緒に食べよ!」
「あぁ、陳野(つらの)さんか。いいね。あ、猫子さんか。アハハッ」
想生くんはたまに猫子さんの事を陳野さんという。苗字だろうか。笑う想生くんを見るだけで、何故か心が温まった。
「海月ちゃん…あ、想生くんもいたんだ。じゃあ爪楊枝もう1本持ってこなきゃね。」
いつの間にか猫子さんは部屋に入っていた。すると、想生くんは「僕の分は大丈夫です。」と丁寧に断り、猫子さんは明るい声ではいとだけ言って部屋を出て行った。想生くんは爪楊枝をいちょう切りのように切られたリンゴに指して私の方に向けた。
「はい。あげる。」
「わぁありがとう!」
想生くんにリンゴを運んでもらい、そのまま私の口の中に入れた。
「ん~甘ーい!じゃあ今度は私が想生くんにあげるね。」
「目を瞑ってくれるならね。」
想生くんや他の人は食べているところを見せてくれない。想生くんによると、食べ方が汚いからだそう。私は言われるがまま目を瞑って想生くんにリンゴを食べさせた。いいよという合図で目を開くともぐもぐと頬を動かしている想生くんがいた。
「やっぱりリンゴは純粋に甘くてシャキシャキしてて美味しいね。」
そういうと想生くんはごくんと嚥下し、私に顔を近づけた。すると、囁くように耳元で言った。
「キミがくれたから、もっと美味しくなったのかもね」
一瞬ドキッといたが何も言えず、そのまま想生くんは「そろそろ戻るね。リンゴも頂いたし。」と言って部屋から出て行った。
あのドキッとした心は何だったのだろう…