公開中
幸せと君が逃げるから
初めまして、馨と言います。
ぜひ楽しんで読んで頂けたら幸いです。
「はぁ」
溜息を吐くと幸せが逃げる、とよく言う。しかし、それはただの迷信であり、実際は心身をリラックスさせ、ストレスを解消するための健康的な防御反応。深く息を吐くことで自律神経のバランスが整い、緊張がほぐれるらしい。寧ろ、幸せが逃げるどころか、溜息をついてストレスを逃がす方が良いとされている。
それに、たとえそれが迷信でないとしても。僕は逃がせる程の幸せは持ち合わせていない。
そうやって言い訳をして、僕は今日も一人、教室で溜息をひとつ。
放課後の掃除を押し付けられるのなんて、慣れている。今更だ。
あいつらは面倒くさいからなんて子供みたいに投げ出して、僕が断れないのも分かってて、僕みたいな弱者に箒を持たせて胡散臭い笑顔で帰っていく。
静かな教室は、居心地が良い。開いた窓から吹く優しい風の音、運動部の掛け声、木の葉の揺れる音、散る音。そのどれもが、大きく響く。
それと、誰かが机を運ぶ音。
「溜息って吐いたら幸せ逃げるらしいよ?」
びっくりした。
掃除のために教室の後ろに移動していた机と椅子を運ぶ彼女は、クラスメイトの|森佳澄《もりかすみ》さんだ。
「よく言うよね。でも実際は違うみたいだよ」
僕も、箒を壁に立てて机を運ぶ。僕に掃除を押し付けてきたやつの机を運ぶのは、なんだか複雑だった。
「私も調べたことある、寧ろ良いんだっけ」
彼女はさっき、友達と帰ったはずだ。声が大きいから、聞こうとしなくても自然と耳に入ってくる。
別に彼女は、元々掃除当番にあたっていたわけでもないのに。僕と話したこともないのに。
「それでね、溜息は吐いたら幸せが逃げちゃうでしょ?」
「だから、それは迷信だって……」
「吐いたあとにさ、すぐに吸えば良くない? そしたら、リラックスもできるし、幸せも逃げない!」
彼女は得意げな顔で、僕の反応を待った。
「…………あぁ、そう」
僕の言葉に、彼女は驚いていた。
「反応うっすいなあ、もっとなんかあるでしょう!?」
「勝手に期待した君が悪いでしょ。掃除、手伝ってくれてありがとう。教室の施錠は僕がするから、出てって」
拗ねた様子で、彼女は教室から去っていった。
「はぁ……」
僕はまた、溜息をひとつ。
「吸う、か」
彼女に言われた言葉を思い出す。
掃除当番じゃない僕が教室の鍵を返しに行くと、先生も溜息を吐いた。
吸えば良いですよ、とは言わなかった。
ここでの小説の投稿は初になります。
幸せと君が逃げるから、1話はどうでしたでしょうか。
あまりシステムが理解できていないのですが、応援コメント・ファンレターなどくださればとっても嬉しいです。