幻現(ディヴィジョン)②

この感覚に襲われたのはこれで3回目……。初めての時は7歳の頃 トランサーに変貌した日。2回目は翌日、 同級生から｢空にUFOがいる｣という定番のからかいをされ、小学校のベランダを覗いていた時に脚を持ち上げられ突き落とされた。そして3回目はたった今、日本刀で刺し殺されちゃった。 ……転落死より痛いんだけど!!! めっちゃ痛みが続くし!!! こっちはただ｜悠河《ゆうが》に会いに来ただけなのに(´;ω;｀) --- 悠河:「｜燐《りん》……？　燐ッ!! 目を開けてくれ!!!」 　悠河が燐の身体を揺り起こすが反応がない。 悠河:「お前ら…… 殺しはご法度だといつも言ってるだろ!!!」 ｜将吾《しょうご》:「貴様ら…… 覚悟は出来ているんだろうな!!?」 　悠河と将吾が組員達をどなりつける。倒れてからおよそ5分……。突然 燐の目がカッと開き両眼が赤く発光しながら スっと立ち上がり、手を開いたり閉じたりしている。その後、普段の茶色い瞳に戻り 日本刀が通った腹部をさすっている。 燐:「まさか日本刀で殺される日が来るとはなぁ……。もうめっちゃ痛かったんだけど!!!」 　 燐以外:「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」 　全員が叫び、燐は思わず耳をふさぎ片目をつぶっている。それもそのはず、確かに死んだと思っていた人物がこうして起き上がったのだから。 燐:「あ、悠河！ やっと会えたよ～～～」 悠河:「なんで…… 確かにさっき脈が……!!?」 燐:「トランサーは【不死身】なの。まあ、出血多量だったから復活するまでに少し時間がかかったけどね」 悠河:「そ、そうなのか……。と、とりあえず色々聞かせてくれ。小さい頃そして大学時代に会って以来だしな」 燐:「分かった。私に答えられることであれば！」 悠河:「おっと、その前に……。おい!! この2,3ヶ月で入ってきた奴らを、とりあえず屋敷にいる奴ら全員集めろ!!」 組員:「へいっ!!」 　組員はお辞儀すると他の組員を呼びに行った。 悠河:「さて、これからも会う機会があるだろうから紹介する」 燐:「ゆ、悠河!?」 　悠河は燐の右肩に腕を回すとガシッと自分の身体に引き寄せる。燐の目を通してその様子をばっちり見ていた｜凍矢《とうや》はハァ～～～と大きな溜息をつきつつ顔を手で覆っていた。 凍矢:「あーーーもう……。この場にかこつけやがって」 悠河:「睦月 燐、俺の従兄妹だ!! 燐が来た時にはすぐ俺の元へ通すんだぞ!!!」 組員全員:「へいっ!!｣ 　組員全員が燐に向かってお辞儀をした。 悠河:「さて、行くか！ 燐!!」 　悠河と将吾は燐を連れていった。 燐:「そういえば、よく ここに来たとわかったね。時間までは話してなかったのに……」 悠河:「コレのおかげさ」 　悠河は首につけていた片翼をかたどったペンダントを見せる。燐と対のアクセサリーであり 燐の状態を 微弱にだが感じ取ることができる という代物だった。 悠河:「トランサーという化け物がいるという噂は本当だったんだな……燐」 将吾:「燐ちゃん、こうして会うのも久しぶりだな」 燐:「叔父さんもお久しぶりです。7歳の時にトランサーに変貌して 大学に合格する18歳まで ずっと家に閉じ込められていたからね。それにトランサーという存在が世間に認知されるようになったのもココ最近だし」 悠河:「閉じ込められていたって…… どういうことだよソレ……」 燐:「逢間市で初めてトランサーに変貌したのが私なの。危険性とかも全く分からない状態だったから、家に軟禁されてたんだ。家の中は歩き回れたけど、外に出るには国の許可がいるし、凍矢がいたから 特に出る気はなかったよ。一応パソコンは買い与えられてて それでFXしたりしてお金稼ぎしたり…… あ、高校までは通信制の学校に行ってたよ」 悠河:「そうだったのか……。一時期 全く連絡が取れないから心配していたが、まさかそんなことになってたとはな……。叔父さん達には今も会ってるのか？」 燐:「会うわけ……ないでしょ…… あんな奴ら!!」 　左手で前髪を 右手でスラックスをクシャッと握りしめると苦虫を噛み潰したような表情をした。 悠河:「そうだよな……」 将吾:「あの時は｜悠莉《ゆうり》達を止めることが出来ず、すまなかったな　燐ちゃん。私が悠莉を止めていればあんなことにならなくて済んだはずなのに……」 　将吾は座った姿勢から 深く謝罪の意を込めてお辞儀をした 凍矢:「……心配しなくても大丈夫だぜ 叔父さん？　燐は必ず俺が護る。そのために俺がいるんだからな！」 　いつの間にか凍矢に入れ替わっていた。親の話をされ悲しみを感じたから である。 凍矢:「さてと……本題に入ろうぜ 悠河？　燐は今こんな状態だから俺が話すよ」 悠河:「あ、ああ。頼む、凍矢」 凍矢:「結論から言えば 【あの森】にはトランサーの気配がした。人間を装って森に入ったが、歩けば歩くほど迷ってしまう。あの森全体がトランサーの支配下にあるってことだ。そうなれば、人間である悠河達では まず太刀打ちできない。絶対に森に入るんじゃねぇぞ」 　凍矢は半目の状態で悠河を強く睨みつける。 凍矢:「幻覚を現実とする力、｜幻現《ディヴィジョン》だろうな。解決するまでは誰も入らないよう入口に見張りを付けてもらえるとありがたい。頼めるか？」 将吾:「分かった。私の方で人選し手配しておこう」 燐:「よろしくお願いします、叔父さん。助かります」 悠河:「……いきなり代わったりするのは中々慣れないなw」 燐:「ごめんね、トランサーであることをずっと隠してて」 悠河:「燐のせいじゃないさ。必ず【生きて】帰ってきてくれよ。ここは燐にとって《《もうひとつの家》》でもあるんだからな!!」 　悠河は拳を前に突き出す。 燐:「……うん」 　燐もトンっとグータッチを交わした。 燐:「じゃあ、森の中を調べに行ってくるから あとはお願いね、悠河!!」 悠河:「任された！　気をつけてな！」 　軽く会釈すると森のある方向へ走り出した。 ？？？:「・・・・・・ あんなガキを頼るとは。｜組長《オヤジ》もカシラもどうかしてる」 　組員の1人が燐の後を追い走っていく。 悠河:「アイツ……!! ｜組長《オヤジ》、ちょっと行ってくる。嫌な予感がするんだ!!」 将吾:「待つんだ 悠河!!!」 　燐の忠告が実を結ぶことなく2人の組員が森に向かって走っていった。