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Over #2
僕は、カラフルなものが好きだ。
色鉛筆、虹、マカロン、お花、飴玉に傘。見ると心がなんとなく弾む。
でも、カラフルなのに目にしても興奮しないものが1つだけある。
「はぁ......美味しくないなぁ」
それが、薬だ。
いくつか持病がある僕は、毎日複数の薬を飲まないといけなかった。
幼いときから服用してはいるけど、未だに薬は嫌いだ。
赤、薄黄色、白、茶色、水色。カラフルではあるけれど、テンションはむしろ下げ下げ。
しかも全部苦い!
いくら水で流し込もうとも、この不味さは誤魔化せない。薬は非情だ。
今日も今日とて、僕は薬を飲みに移動していた。
高校生の僕は、当たり前のように友達と昼休みに昼食を取るのだが、その前で薬を飲むことはできない。
理由は単にドン引きされるから。
「え、その量飲むの?」「大丈夫なのかよそれ」「大変だね〜」「薬の色可愛い!」「......」
今までやらかしてしまったときの反応はみんな多種多様だったけど、まぁ大体が共通してドン引きだった。
自分にとっては至って日常のことなのだが、やっぱり傍から見ればちょっと変。いや、かなりやばい。
人生経験でそう学ばされた僕は、人前で薬は飲まないと決めたのだ。
というわけで僕は今日も、そそくさと友達の輪を離れて|人気《ひとけ》の少ない校舎の空き教室へ。
──ってあれ、誰かいる!?
入ろうとしてようやく気付いた僕は、咄嗟に引っ込んでドアの陰に隠れる。
そこにいたのは、暗い雰囲気の黒髪男子。
上靴のラインが青色、つまり僕と同じ1年生だ。といっても見覚えはない。
乱雑に机や椅子が置かれている室内。隅の椅子に、その子は座っていた。机には、何かの包装のゴミが広がっている。
食後かな、と思っていると、その子はおもむろにポケットへ手を入れ、何かを出した。
「......!」
薬だった。
僕と同じように、色とりどりの薬を大量に口に放り込んでいく。
──この子も持病で薬飲んでるんだ!!
そう思うと居ても立ってもいられず、飛び出してしまった。
「ねぇっ!!」
「うぉ、っ」
案の定驚いたらしく、目を見開いて固まってしまった。
「あ、ごめん! びっくりさせたよね」
「な、何だよ......!?」
思いのほか低い声だ。
僕が近づいていくと、彼は避けるように椅子を引いて立ち上がる。
「えーっと、僕、|天白《あましろ》。名前は?」
「──|常盤《ときわ》で、す……」
「常盤くんね!」
僕の無駄に明るい声が荒廃した箱に響く。
数秒経って気付いた。
あれ、これめっちゃ気まずくない?
「俺に何か、用事があるのか……?」
「い、いや? ない、かな」
「??」
いやいや、話しかけた理由があったはず。
常盤くんの右手に乗っている錠剤を見て、僕は本来の目的を思い出した。
「っあ、そうそう! 薬、僕も飲むんだよね」
僕はポケットから、袋に入った薬たちを出して机に並べた。
常盤くんは一瞬ぽかんと僕を見ていたが、やがて俯いた。
「僕、病気でいっぱい飲まなきゃいけなくて」
「……ああ、なるほど」
「一緒かなーって思って、声かけちゃった」
隣座っていい? 聞くと常盤くんは曖昧に返事をした。隣の席に座ると、常盤くんもゆっくり座った。
「人前で飲むとドン引きされるよね〜」
若干の気まずさも気付かないふりで、僕は薬をプチプチと出していく。
いつもの3種類の錠剤4錠、カプセル1錠。
「毎日、飲んでるのか」
「あ、このカプセルは週に3回だよ」
薬は自動販売機で買ったお茶で、2回に分けて流し込む。喉をごろごろと通る感覚が不快だ。
「うーん……まずい」
常盤くんの顔を覗き見る。なんだか深刻な面持ちに見えた。
後になって思えば。
「持病だ」なんて、彼は一言も言っていなかった。
#1からなんと1年半以上経ってしまいました……!!
めっちゃお久しぶりな日桜です。
今回あまり歌詞の要素なかったですね。
読んでくださった方に感謝です!!