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水の星の端くれで 【2】
1日でひとり来ればいい方だよ。
過去にそう語るのはひとりのおくりびとの男である。
おくりびとはその仕事柄ゆえ、仕事が舞い降りることは少ない。
それでもおくりびとは落ちた星々を空におくり返し、その時、星から感謝の証として星の光の素であるスターリングを授かることがある。
それは実に美しい輝きを放つので、宝石商に非常に高値で売れる。
それゆえにおくりびとはおくりつづけることをやめないのだ。
もちろんおくりびと全てが善人というわけでもない。
中にはどの星でも関係なしに星を破壊し、核を密売する者もいる。
ほかのおくりびとはその者たちを"くさり"と呼び、見つけ次第警察に報告をしていると言う。
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午後1時ごろ。開店してからまだひとりたりとも人は訪れていない。
ラヴィカは暇そうに、カウンターで新聞を読んでいた。横にあるコップの水はひとりでにゆらゆらゆれている。
レンは店内の隅々まで埃を払っていたが、急にひとつラヴィカに尋ねた。
「あの…さっき言ってた星診断機ってなんですか?」
ラヴィカは新聞から目を離すことなく答えた。
「人の星の色を調べるんだよ。」
レンは決まり悪そうにまた問う。
「星の色って言っても似たり寄ったりじゃないですか…調べても、結局星を拾わなきゃ意味ないですし。あとどうやって調べるんですか?」
ラヴィカは新聞をカウンターの上に置き、そこからある半透明の白い石板を取り出した。これが星診断機だ。
「ここの上に、自分の髪の毛とかおく。ない場合は所有物でもいい。」
ラヴィカは先程読んでいた新聞紙をちぎって診断機の上に置いた。
するとコップから水を少しかけると、石板の色が薄い黄色へと変わった。
「…かわった。」
レンは関心深そうに、石板をまじまじと眺めた。
「こいつはひとつで10人分の色を記憶できる。まぁ10人分全部が埋まるなんてそうそうないけど。」
「でもまだ色がわかっただけじゃないですか。」
するとラヴィカはまたカウンターから大きめのランタンを取り出した。
「こいつに火を灯して、石板を近づけると、ランタンがサーチ機みたいな役割をする。石板が記憶している1番新しい色からこいつの燃料になる。燃料になった色は記憶から消される。」
一通り説明すると、ラヴィカはそそくさと出した道具をしまい始めた。
「…実際に見なきゃわかんないなぁ。」
レンは店の奥に戻り、また箒をさっさと動かし始めた。
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午後3時ごろ。相変わらずひとりも店を訪れていない。レンは店から出て商店へと出向いた。
ラヴィカは相変わらず店番をしていた。
サジタリウス町から見る空はだんだんと赤味を帯びてきていた。
そこからしばらくしただろうか。店のドアがいきなりチリンと鳴いた。
ラヴィカはレンが帰ってきたのだろうと思い、ゆっくりと顔をあげたが、そこには見かけない紳士な男性だった。
「ここで星をおくってもらえると聞きました。」
男性は右手に小袋を持ち、店の中へと入って来た。
「えぇ。もちろん。こちらの席へどうぞ。」
ラヴィカはまだ驚いていたものの、読んでいた新聞をしまい、診断機を取り出した。
「初めての来店でしょうか。」
「えぇ。友人から聞きまして。」
「なら説明しましょう。」
ラヴィカは男性に淡々と話し始めた。
「まず、その人の星の色を診断し、その後私が星をあずかり、お渡しするという流れです。先に言っておきますと、診断は無料で、星をお渡しする際に銀貨を2枚いただきます。星を拾いましたら連絡いたしますので、こちらに住所をお願いします。」
男性は説明を一通り聞けば、出された紙に住所を書き込んだ。
「ありがとうございます。では診断を始めましょうか。」
男性は小袋からひとつの指輪を取り出す。
「こちらの上に。」
男性は指示通りに指輪を石板に置く。
するとラヴィカはコップからスポイトで水を吸い出し、一滴、また一滴と慎重に指輪にかける。
すると石板の色がみるみるうちに青色に染まっていった。
するとまた店のドアがチリンと鳴る。
そこにはいっぱいの食べ物がはいった紙袋を持ったレンがいた。商店から帰ってきたのだ。
「いらっしゃいませ。」
レンは小さくそう言い、そそくさと店の奥に行った。
「ずいぶんのっぽな少年だなぁ。」
男性はレンの背丈に驚いたのか、ひとつ小さく呟いていた。
すると石板の色の変化が止まっていた。
「診断は以上です。」
ラヴィカは石板の上の指輪を慎重に取り出し、綺麗な布巾で丁寧に拭いた。
そしてゆっくりと、男性の手のひらに指輪を置いた。
「ひろいましたら、また連絡いたします。」
「今日はありがとうございました。」
男性は指輪を小袋に入れて、ゆっくりと席を外し、店を後にした。
「お客さん来たんだねぇ。」
「まぁ、来ない方が本当はいいんだがなぁ。」
ラヴィカは石板を慎重に持ち、日の当たる場所に置き、乾かした。
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星の色はその人の性格によって変わるらしい。
赤は熱血で、黄色は優くて、青は慈悲深い性格をしているという。
科学的な根拠はないが、傾向として多いという。
ちなみに、紫は賢く、緑は自由、だそうだ。
サジタリウス町の1番北に位置する場所には、アエクラー教会がある。
教会には街全体に音を響かせるほどの大きな鐘が備わっており、いつも12時には信者たちが礼拝をしている。
ゴミ拾いなどのボランティア活動を行い、街全体の治安維持に努めているらしい…
星もいななく深い夜のこと。
「点呼を始める。」
リーダーが点呼を始める。
ランティア。「はい。」
セダム。「はぁい。」
ルリト。「…あっはいぃっ!」
ハナニラ。「はーいっ!」
「よし、全員いるな。」
リーダーらしき男は全員の声を確認すると、うんといったようにうなづいた。
「りぃだぁ。あとどのくらいで核は満タンになるんですかぁ?」
ハナニラが甘い声でリーダーの男に尋ねる。
「…これで、ちょうど半分だ。」
そうなんだぁ、とハナニラは相槌を打つ。
「…し、死者の人たちも、きっと嬉しいですよ…ね!神の一部になれるのですから…!」
ルリトは嬉しそうに話した。
「キミさぁ。全然集められないくせにさぁ、よく言えるよね。」
セダムはルリトを指さして言った。
「全然ダメですね。まさか私より集めている人がひとりもいないなんて…」
ランティアはやれやれと言ったように言った。
リーダーらしき男はそんな全員の声も気にしないようで、話を続けた。
「今夜も落ちた星を集めよ。ノルマは最低でもひとり10個。達成できなかった者は明日の朝まで教会の警備だ。」
リーダーのその言葉を聞いて、ルリトは焦りを感じたようだった。
「うぅ…もう警備は嫌だなぁ。」
「ふっ、お前がグズなだけだろ。」
ランティアがそういうと、さっと教会から出ていってしまった。
「…神よ、貴方がこの地に再び蘇る時が今、近づいております…貴方様の為に、私たちは最善を尽くして参ります…」
教会の中には大きな黒星のようなものがゆらりと浮いて佇んでいる。
「りぃだぁ。はやくいこー?ハナニラとってもさびしぃよぉ。」
「今行く。…ちょっと待ってくれよ。」
リーダーの男は痛む腰を抑えながら、這いずるようにゆっくりとハナニラの方へと寄っていった。
「痛みに耐えるリーダー…男前でステキ!」
ハナニラがそういうと、リーダーの男はははっと乾いた笑いを浮かべた。
サジタリウス町の夜空は、また星々が降り注ぎ始めた。