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恋風
「、、、騙したのか」
「そんなはずないじゃん。元からそういう話してたよ?」
「本気で、好きだったのに、失望した」
「こっちは別にマジでもなんでもないから。気持ち悪いよそういうの」
「でも、」
「もういいから早く消えて。もうその顔見飽きたし、あんた用済み。」
苦くて酸っぱくて辛い恋の記憶。
光を見ることさえできなかった暗闇の中。
そんな記憶の後遺症は、今でも深い傷となって、
一つ一つの言葉が沁みて疼くし、ふとしたことで開いて血を流す。
怖かった。また拒否されることが。
怖かった。また騙されることが。
怖かった。 _____また、見捨てられることが。
怖い。人間が怖い。信用できない。
また捨てられるかも。また怖くなるかも。
自己嫌悪に陥った。
誰かと話していても笑えなくなった。
人を信じられなくなった。
こんな心の内を一人で呟くことが増えた。
そんな中、光が届いた。
「大丈夫?」
この人は信じられると直感的に思った。
真っ直ぐな瞳。心の底から心配そうな、目の奥。
人を信じられない俺は、いつのまにか、心のドアを開け始めていた。
あの日あの時間で止まっていた針が、動き出して。
「」
ぽっかりと穴の空いた心に、ふんわりと温かい言葉が広がる。
まるで、春の優しいそよ風のように。
このままでいたい。
そんな感情を抱いたのはいつぶりだろう。
このまま、優しい風に煽られて、ふわりと浮いていたい。
光の方まで、連れて行ってほしい。
吹き抜ける秋の風に、ひらひらと木の葉が舞う。
同じだなあ、なんて思いながら眺める。
「、、、この想いって、なんなの、?」
ゆらゆら、ひらひら。
俺の心も、同じように揺れ動いていた。
「大丈夫?」
そう言って覗き込んだ時には光のなかったその目に、光が宿った。
「ありがとう」
その綺麗な瞳に吸い寄せられるように、体温が上がる。
やけに巡る血が熱いような気がして、頭の中がのぼせるようにぼーっとなって。
その瞳に、俺はどんな風に映ってるの?
「」
一度もこんな想いになったことはない。
周りをそういう目で見ることすらしなかった。それは、仕事柄でも性格でもある。
なのに今の心には、曖昧な想いの芽が生え、そよそよと揺れる。
このまま、この揺らぎだけに身を任せていたい。
そんなぼんやりとした思いに、何故だか嘘はつけなくて。
このままでいたい、
なんて、都合のいい願いを呟いた。
君は、今何をしてる?
何処で、誰と笑ってるの?
会いたいな。
これ、教えてあげたいな。
そんなこのもどかしい気持ちは。
きっと、
--- 「恋に落ちることはきっと、もっと簡単だっていいはずだ」 ---
だんだんと形を成してきた想いを、ぎゅっと抱きしめる。
きらりと光るその想いは、紛れもない本心だ。
貴方が吹かせた風にさらわれるように、一歩一歩、進んでいく。
君の元までは、あと少しだ。
その少しの時間を大切に噛み締めながら、広い空を見上げて、呟いた。
やっとわかった。やっぱり僕は、
--- 「君が好きだ」 ---
裏設定あります。
そのうち日記かなんかで書きます。