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第5話 最後
6番は何事もなく、精神的にもさほどダメージはなかった。でも、次第にダメージは募っていく。
「紫音、さん…」
そう椿に呼び止められ、パッと振り向く。
「なんとも思っていないんですか?紫桜さんのこと…」
「…紫桜、」
貴方が1番知っているはずです、紫桜さんを。
きっと、椿はそう続けたかったんだろう。紫桜の鏡越しの姿が、鮮明に脳裏に思い浮かぶ。毛先はすこし黒ずんでいた。
「…ほら、早く7番に進もう、小鳥と紫桜を助け出そうっ?」
そう楓が、無理して明るく振る舞う。その見え透いた演技はバレバレで、みんなは濁った感情を抱いていた。淀んだ水が流れる川に綺麗な水を流したところで、淀んだ水は消えない。ただ薄まるだけだ。
曲がり角を曲がったところで、切望の『8』が見えた。異変だと疑いたくなるぐらい、信じられない。
「8、ようやく…」
誰かが呟いたが、誰かかはどうでもよかった。
切望の数字の後見えたのは、一人の少女だった。黒い髪をヘアピンで留めていて、ひとつ結びに束ねている。服はよくあるシンプルな服で、顔はそんなに綺麗とも可愛いとも言えない。
脳の中にある記憶の鎖が、カチャカチャとほどかれる感じがした。その顔には、見覚えがあった。
「《《わーし》》のこと、わかる?わかるよな、《《紫音》》?」
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僕・小鳥は、四角い箱の中で目覚めた。すこしゆとりがあるぐらいで、モノは1つしかない。手をつねってみて、その後、痛みを消すように唱えてみる。痛みは消えない。能力は吸い取られたようだった。
黒いモニターテレビがあって、そこに隠しカメラかなんかで、みんなの様子が伺えた。時には仲間割れして、時には銃撃音が鳴り響く。
なんとか8番まで来た彼女らを、僕はほっとした目で見つめた。でも、何かがおかしかった。
紫桜。
なんで、こっち側に来ない?なんで、僕は1人なんだ?