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第10章:見えない敵
ある晩、二人は少しばかり広い空き地にキャンプを張った。周囲には何もない。ただ、荒れ果てた草原が広がるだけだった。
「もう少しで、着くのかな」とカナが小さな声で言った。
「分からない……でも、今は休もう。明日、また進めばいい」
ユウはそう言って焚き火を囲みながら、空を見上げた。どこまでも広がる漠然とした暗闇。星も、月も、見えない。
その時、ふと耳を澄ますと、遠くから足音が聞こえるような気がした。
「……誰か、いる?」
ユウは静かに立ち上がり、手にした銃を確認した。カナもその様子に気づき、息をひそめて身を小さくした。
「誰かいるのか?」
足音は徐々に近づいてきている。やがて、それは数人の足音だと判明した。ユウは、カナをすぐに隠れるように指示して、周囲に注意を払った。
「隠れろ!」
カナは木の陰に身を潜め、ユウもその後ろに隠れる。足音はさらに近づき、今度は明確に声が聞こえてきた。
「探しているものを見つけたか?」
「いや、まだだ。でも、この辺りだと思う」
「これが見つからなければ、あの男に会うことはできない」
ユウはその会話に耳を澄ませながら、自分の心臓が激しく鳴るのを感じていた。この話の中で「男」とは誰を指しているのか、そしてその「見つからなければ」という言葉にどんな意味が込められているのか、全く分からない。
だが、彼の直感は警告を発していた。この場所で待ち受けているのは、ただの生存競争だけではない――何かもっと恐ろしいものが隠されているような気がしてならなかった。
ユウは息を潜め、さらに耳を澄ました。
「このあたりで、動きがあったか?」
その声が再び聞こえてきた。ユウはその瞬間、目の前に立っている影を感じ取った。背後の草むらに、誰かが立っている。突然、彼の脳裏に浮かんだのは、かつて妹ミナが失われた瞬間のことだった。あの時も、こんな風に自分が警戒していた――いや、それよりももっと冷徹に。