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この世界にサヨナラを
眼下でビルが群れている。
様々な色の明かりが星空を覆い隠し、人は蟻のように行列をなして進んでいく。
自分もかつてその一つだったのだと理解する。
社会の歯車として、ただただ働く毎日。ささやかな晩酌を楽しみに、面白くもない作業や会話を繰り返す日々。
思い出すだけでも吐き気がする。
だが、今は解放された気分だ。社会という名の呪縛は解け、自由になった。
数時間前、勤めていた会社を辞めた。
その瞬間から、いや、ずっと前から狂っていたのだろう。
死への渇望や憧れ。
この胸を満たす狂気。
他人には到底理解されないだろう。いや、されなくて良い。
彼らはほんとうの自由を知らないまま生きて、知らないまま死んでいくのだろう。
可哀相だ。縛られたままで生きていくなんて。
靴を脱ぎ、きれいに揃える。鞄をそっと横に置く。
これで自殺だと分かるだろう。無駄に警察の手を煩わさずに済む。可哀想な彼らへの、せめてもの配慮だ。
無駄に高いフェンスを越え、僅かな隙間に足を置く。
体が震える。待ち遠しい。自分の魂は、解放を望んでいる。
ふと、自分が死んだら悲しむ人はいるのだろうかと思う。自分の人生に、なにか意味はあったのか?意義はあったのか?
なんのために生まれてきたのか?
何も無い。悲しんでくれるやつなんていない。意味なんてなかった。
もっと早く気づいていればよかった。
なぜ気づかなかった?未練でもあったのか?
あったのだろう。死へ憧れながら、死のうとしなかったのは、未練があったからだろう。少なくとも、あの頃はまだまともだった。理性があった。だから実行しなかった。それだけのことだ。
勇気がなかったから、怖かったから。こんな自分を、いつか誰かが愛してくれると信じていたから。
身を投げる。
この世に用はない。
結局愛してももらえず、頼られることもなく、息をするだけの毎日。
自分の弱さが、醜悪さが、涙とともに溢れ出てくる。
悲鳴が聞こえる。全てがゆっくりと流れてくる。
こんな自分にも、生きる意味が…
「さよなら。」
視界が暗転していく。痛みなどない。