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5.村長
村長に会いに行くついでに、村を案内された。
すると、ライセンの家にいただけでは分からなかったことが分かってきた。
まず、建物が違った。この村の建物は、古い。今まさに建てられているやつも見かけたけど、どう考えてもコンクリートが一軒にも使われていないのはおかしいと思う。
さらに、そこから思い出してみれば、家の中に、囲炉裏(?)みたいなやつがあった。
(もしかして、ここは相当古い場所なのかな?それとも今まで来たことがなかっただけで、今も昔ながらの生活をしている地域なのかもしれないな。)
だったら村長という役職を自分たちで作っていてもおかしくない。そう響は考えた。
そして、自転車も自動車もなかった。見かけた人たちの移動手段は、歩いているか、馬に乗っているか。
(すごいなぁ。)
響はこんなに昔の暮らしを再現できているこの村に、驚きしか感じられなかった。
また、服装も今私が着ている服同様、古臭かった。
(この村は、なんでこんな面倒くさいことをしているのだろう?だけど、面白そう!私も自分で役割を作って演じてみようかな。)
考えた結果、ライセンに言ったとおりの、「遠く村からやってきた村長の娘。そしてこの村には冒険の一環としてやってきた。」、そういうことにした。
「村長に面会したいのだが。」
「おお、ライセン殿か。いいよ、今日は父もそんなに忙しくない。」
どうやらこの人がこの村が創り上げた村長の息子のようだ。
(ふうん。昔って家系で決めていたんだっけ?じゃあこの人が次期村長か……。ってあれ?そうなると、ライセンは私が次期村長かそれに類するものか、と思ったのかな?だったらあの慌てようにも納得がいく。)
「助かる。」
「村長さんに会いに行けるの?」
「そうだ。」
「分かった。」
素直に頷いた。
「ようこそ我が村へ。久しぶりの来訪者じゃ。歓迎するぞ。」
「ありがとうございます。」
お芝居みたいに長が長らしい喋り方をしている。それを見て、響は笑いをこらえるのに必死だった。
そして、その村長はやはりというか、いつも見る村長とは違った。
「ところでお主は今ライセンの家にいるのだろう?我が屋敷にも村の賓客としてなら泊めることができるがどうする?」
「そうですね。ではお願いします。」
こうして響は一時期の家を手に入れた。
「ところで、服とかはどうすればいいのでしょうか?お金は今までに使い切ってしまって。」
響はだんだん「遠くの村からやってきた村長の娘」という設定を演じるのが楽しくなっていた。そして、だんだんこういう設定なんだな、というのも理解してきた。
(私、意外と演技も出来るんじゃない?家に戻ったら俳優でも目指してみようかな。)
そして、調子に乗ったりするのが響の悪い癖であった。知識量とかは他の三年生に比べると多いはずなのだが……。こんなわけで、学校では面白いキャラ、という風に受け入れられていた。
「ないのか!?」
「ええ……事情があって無くしてしまい。」
さっきは使い切ったと言っていたというのにもうこの有り様である。
「そうなのか、大変じゃったな。」
「そうなんですよ。」
(やばいやばい。この流れってなんで無くしたかを説明しないといけなくなるんじゃあ……)
焦る響。
「そうだな、仕事と交換でどうじゃ?」
(よかったああああああ……。だけど流石古い暮らし。私の年齢でも働かされるんだ。)
響のこの村への印象はとても上がった。
(まあ私は小学三年生。そして見た目はもっと小さく見られる。そんなに重大な仕事は任されないだろうし、この年齢を鑑みて、簡単な仕事にしてくれるだろう。)
響の両親は響に甘かったから、そんなにひどい仕事は任せない。ただ、そのせいで響のひどい、のハードルは下がっていた。
それなのに響は安心した。だから……
「やります!」
こう言ってしまうに決まっているだろう。
「ただ、馬に乗ってみたいんですけど……」
響はそう発言した。
(だってお母さんお父さんに会いに行くためには、こうするのが手っ取り早いでしょ。)
響は満足げだった。
ただ、実際にはそうするためには、馬ももらわなければならないだう……。
そんなところは抜けているのであった。