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きっとビー玉は割れない
草木ボーボーの生え放題の、ゴツゴツした山道の中…
僕はナツと2人で歩いていた。
ナツが先頭で、僕が後ろだ。
光源も少ないし目の前は真っ暗だし、それに加えて僕は目が悪い。
ナツを見失ったら最後…と言うことで、
ナツからはガッシリ腕を掴まれている。
正直痛いし恥ずかしいんだけど…ナツはなかなか聞いてくれなかった。
「ここら辺から、道が綺麗になってるね。」
さっきまでゴツゴツした岩が散らばっていて、足の踏み場もないような地面だったのに、いつのまにか人が行き来してるような、固くて平べったくて、歩きやすい土の道に変わっていた。
「んー、もうすぐか?」
ナツはいつものようにドカドカと前に進んでいる。
次第に当たりが眩しくなって来た。
「正直オレも覚えてないんだよな、遠い記憶すぎて…」
道は歩きやすくなったものの、両サイドに生えている草木は生え放題で、僕の肌にねちっこく触ってくるから、いつのまにか腕や膝が真っ赤になっていた。
それに比べてナツは…どこにもかいた跡も日焼けもなかった。幽霊みたいで不気味だなぁ。
でも、どうしてナツはこんなにも肌が白いんだ?僕より外で遊んでたはずだし…いや、色白なのかな。
「おっ。なんか見えて来た。」
突然ナツはそう言って、ゆっくり立ち止まった。
木々の間からちらりと見える家々は、人の活気をここからも感じられた。
「多分、ここだ。」
ナツはそう言い、また歩き出して、下り坂を歩いて行った。
「待ってよ、多分ってなんだよ。僕はナツが知ってるって言うからついて来たからさ。違ったら容赦しないよ?」
「だからオレもあんま覚えてないんだって、違ったらすまねぇ。」
「じゃっ、違ったら僕にソーダ一本奢りね。」
「ぐっ…だいぶたけえな…まぁいいよ。」
ずるずる滑る下り坂でこけないように、互いに崖に捕まりながら下っていった。
手が痛い。
下りきると、さっきチラッと見えていた家々がハッキリと見えた。
近くで見るとなんだか古臭くて、壁もみんな汚く見えた。
何故か鼓動が激しくなって来た…
「ゲシ、早速はいるぞっ。」
「まだ心の準備が…えっ!ちょっ、おいっ!?」
だけどなりふり構わずナツは僕の腕を掴んで、だーっと村の中に入っていってしまった。
意外に村には人が沢山いた。みんな驚いたように走り去る僕たちを見てきた。恥ずかしい。
「ほっ、本当にお前の友だちが居るんだよなっ!?」
「いやっ、うーん、多分…。」
「居なかったらタダじゃおかねぇからな!?」
僕はナツに腕を引っ張られたまま、そのまま村の奥にあった神社まで連れ去られた。
村の人たちの目が痛い。
そして、もう帰りたい…
「なんだか懐かしいな、ここ…」
ゲシをひっつけて一直線に向かった先、引き付けられたように神社に着いた。
なんとなく、昔よくここにいた気がする。
鳥居は白っぽい石で苔むしていて、石畳の道はデコボコしてて、こっちも苔むしている。
本殿は小さくて、前にポツンと賽銭箱が置いてあるだけだった。
「ここに、ナツの友人がいるのか?」
ゲシは不思議そうに聞いて来た。
「…まぁ、そうかもな…」
「なんなのさー、それ…」
「ふふっ、キミは面白いね、ナツ。」
知らない人の声がした。
びびって振り向くと、丸メガネをかけた、オレと同じぐらいの、髪が短く切り揃えられた男の子がいた。
「うおわぁっ…えっとぉ…?」
誰だろう…誰…?
「ひどいなぁ、もう忘れたのかい。ぼく、キミのこと好きだったのに。」
「…ナツ、これが…友だち…か?」
「いや…覚えが…ない。」
男の子はそう聞くとがっかりしたようにして、とたんにへらへらと笑った。
「ぼくねー、トシだよ。トシ。ナツくんのトモダチさーっ。」
オレの方にトシは駆け寄って、がばっと抱きついてきた。
何が何だかわからない。
「こーんなにステキなトモダチのぼくを覚えてないだなんて、ひっどいや。キミから先に言ってくれたんじゃないか、ト・モ・ダ・チ。って。」
トシは今度はまた離れて、本殿の方に走っていった。
「カミサマに願い事をしよーう!」
いきなりトシが叫んだ。
「いきなり何言ってんだ…?」
オレは突然すぎて、つい言葉が漏れた。
「ここのカミサマは賽銭いらずで願いを叶えてくれるのだ!だから、キミたちの願いを叶えよう!ってわけ!」
トシは長々と話す。
「そしてキミたちの欲望を満たして!シアワセになろってわけさっ!サイコーだろ?なぁ?ナツ。」
「なぜオレに聞く…」
「なにがしたいんだ…?」
ゲシも引いてる。
突然、妙なことを言い出したと思えば、トシは俺たちの腕を力強く掴んで、本殿の方まで連れ出して来た。
「さあさあさあ両手を合わせて願い事をするんだ!」
「んえっ、おっ、おう…?」
「あっ、僕も?」
トシの勢いに押されて、オレたちは手を合わせた。
じーっと瞼が重くなってく。このままじゃ、寝てしまいそうだった。
引き返せない…?いやいや、何を言う、オレ…。
そんなわけ、ないだろ?願いが本当に叶うなんて、そんなわけ____。
---
「起きろー、ナツ。」
「3年生の初めの授業寝ちゃうなんて、ナツってねぼすけさんだなー!」
トウヤの声、と、アキの声、だ…
ここは?いや、オレは?どこなんだ?
授業?じゃあここは学校か?よく見ると、オレの見たことのない…床が真っ白い。その上黒板に変なのが張り付いてる。
窓が金属に囲まれてる。トウヤもナツも、みょうちくりんな物を持ってる。みんな、持ってる…
「どうした?ナツ。大丈夫か?」
「うー、いや、大丈夫。オレ平気だよ。」
にしてもここは何処だ?本当に学校か?
本当に、オレの"願い"が叶ったのか?
「まあ、授業始まるぞ。」
机の中には、数冊の本があった。
教科書みたいだ。表紙がかたい。
国語の教科書をめくってみた。どの話もおとぎばなしみたいだ。
「変だ、な…」
キーンコーンカーンコーン…といきなり鐘が鳴った。
「みなさん、席についてー。」
それとほぼ同時ぐらいに、先生みたいなおばさんが皆んなに呼びかけた。
「さぁ、国語の授業を始めますよ。当番、号令。」
起立、礼、着席。
するとおばさん先生は授業を始めたようだった。
緑のヘンな黒板に字をカタカタと書いて、漢字とか、物語とか、いろいろ言っていた。
いつのまにか終わっていた。なんだか楽しい。
「ふぃー、疲れた…」
「アキー、次は算数だぞ。」
「頑張ろうな、アキ!」
オレが憧れてたものって、こんなに楽しいのか…!
---
「掛け算わかんねーよ!」
アキはそう言い、駄々をこねていた。
「んなこと言うなよ…おい、ナツ。ヘルプ。」
「あいよー。」
アキがつまづいていたところは、5×2だった。
初級のド初級だ。つまづくほうがむずいだろ、これ。
「5個ずつ入れられた爆弾が、2箱あるんだ。それを合わせると?」
「5個と、5個…10個?」
「あったり〜、よくできました〜。」
オレはアキの頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
「それにしても爆弾って…他にいい例えねぇのかよ…」
「いやー、なぜか爆弾がしっくり来てさー…」
「…バイオレンス野郎め。」
バイっ…?何かは知らないが、アキが無事にわかってくれて良かった。
すっかり日が落ちている。
「あーっ!もう6時だ!ごめん!わざわざオレの補習に付き合ってくれて…」
「いいよ、オレたち"友だち"だろ?」
トウヤはそう言い、へらへらと笑った。
そういや、友だちって…
オレにも、大切な____…いや、気のせいだ。
「明日は寝るなよー。」
「言われんでもわかっとーよ!」
オレはトウヤたちと別れた。
明日が、楽しみで仕方なかった。
でも、どうしてだろうか。
オレの家…どこだろ。
「や。ナツ。元気そうだったね。どうだい?」
メガネをかけた、短い髪の男の子が話しかけて来た。
「どうだいって…てか、お前誰だよ、てか、なんでオレの…」
「トシだよ。二度も忘れられるなんて、ぼくちょっとショック。」
トシ。
思い出した。
オレはトシに願いを叶えてみようって言われて、そして、ここに…。
「あ、ゲシくんはなんともないよ。彼はキミにとって、どうでもいい存在みたいだから。」
「そんなわけない!」
「勝手に決めつけるな、だろ?」
トシはギロリとこちらを睨みつけて来た。
「ぼくねぇ、キミとサシで話したかったの。だから、キミをここに来させた。」
トシは続けて話す。
夕方の空が、さらに真っ赤に染まってきた。
「ついでにキミの願い事も叶えてあげたの。ちょっとしたサービスだよ。」
どうして、オレなんかに。
何処かで、オレたち…
「…あの時の…」
オレは思い出した。
乾いた空の下、黄金色の麦畑の中に、誰かがいた。
その子はオレを見るなり、こう言い放ったんだ。…オレが見えるって。
オレと一緒に遊んでくれたんだ。
すると、こう言ったんだ。
「ぼくは神様だ。」
るるるです。
普段こういう感じであとがきにメッセージとか全然しませんが、予告という感じで失礼します。
次回は、前編、後編というカタチになります。
それだけです。どうぞよろしく。
るるるでした。