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0.未来
あの日、未来を見た。
この組織にいる自分が死ぬ未来を。
確かに、この目で見た。
確かに、この能力で見た。
大切な人が巻き込まれて死ぬのを見た。
死ぬのが自分だけならよかった。
けれど大切な人まで巻き込むのは嫌だった。
だからこれは、全部仕方のない事なんだ。
自分が死なない為に。君を死なせない為に。
夜、建物の電気が消え始めた頃に外へ出る。
仕事着から昔君と買った服に着替える。
「…大丈夫。」
ボタンをしめる手が震える。
これがあの未来を見たせいなのか、それとも君と離れるのが寂しいのかはわからない。
鏡に映る自分が今にも泣き出しそうな顔をしていた。酷く情けない。
「…」
机の上の写真立てに入れていた置いてある君との写真を抜き取る。離れていてもずっと一緒。
絶対に忘れない。
「…未来は変えられるよ。」
あの未来を変えるんだ。
その為に自分が犠牲になっても構わない。
でも、これは自分が犠牲になる為じゃない。
自分達の未来を守る為なんだ。
着替えが終われば窓を開ける。
強風に煽られて部屋の書類が飛んでいく。
髪がボサボサになる事など気にしない。
壁に手をつき、窓辺に立つ。
見下ろせば下が見えない程高い場所。
前に踏み出す瞬間、そっと壁から手を離した。
彼が窓から飛び降りる姿を見た者はいなかった。
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未来を見る能力者。
彼は今何処にいるのか。
いなくなった理由はなんなのか。
生きているのか死んでいるのか。
全てが謎に包まれていた。
彼がいなくなってからは、
喜ぶ者、嘆き悲しむ者、追いかけて死ぬ者…
皆が別々の選択をとる。
謎に包まれていても確信を持って一つ言える事。
それは、彼は人に愛される人間だったという事。
全てを愛した彼は、全てに愛されていたのだ。
全てが謎に包まれたあの日から少しした後、
幕を閉じた者の物語が再び始まった。