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●第一奏 解放と自由の束縛⑶
「り、律くんおはよう!とか言ってる場合じゃないねこれ!」
扉を押さえているのは隣の部屋の大学生、|日坂 奈子《ひさか なこ》だった。
このマンションは比較的家賃が安いので、一人暮らしの人が多い。
彼女の格好を見ると外出から帰ってきた後のようだ。
手入れされた茶色の髪の毛はくしゃくしゃになっていて、必死で逃げたに違いない。
「と、とりあえず逃げよっ!ここ抑えてるからエレベーターいじってくれない??」
「は、はい!」
エレベーターのボタンを押すが、カチカチと音が響くだけで一向に来る気配がない。
押しすぎてボタンが外れた。破壊神なのかな、俺。
「階段から行きましょう!」
「わかったぁぁぁ!!!!」
7階から階段で降りるが、途中でこれが上りじゃなくてよかったと安堵する。
上りだったら数回登っただけでバテるだろう。
共用玄関にたどり着いたが、そこは避難しようとするマンションの住民でいっぱいだ。
この中を潜り抜けられる自信はない。
「ど、どうしよ!あ、窓を割ろう!」
なぜそういう思考になるのかわからないが、今はそれが最善策だ。
『せ〜のっ!』
散らばっているパイプ椅子を2人で持ち上げ、窓を破壊する。
体を切らないように気をつけながら外へ出た。
街は大混乱だった。
明らかに様子のおかしいロボットたちが、腹の辺りについた口のような機械で人間を飲み込んでいる。
ブラックホール並みの吸収力だ。
「ちょ、とりあえず中学校に避難しよう!あそこなら!」
「はい!」
隠れたり走ったりを繰り返しながら移動していると、中学校が見えてくる。
いつもならもっと早く着くのだが、遠回りをしているから仕方ない。
「あ〜、もう!スマホ死んでる!ニュース見れないじゃん!」
「えっ…」
驚いたが、テレビが壊れたならスマホも壊れるだろうと妙に納得してしまった。
「ほら、中学校だよ!うわ、みんな考えることは一緒だね。」
開いた校門の前には人が群がっていて、グラウンドにはこれでもかというほど人が詰まっている。
「正門からは無理そうだね。柵を乗り越えよう!」
「…さっきからなんでそういう発想になるんですか?」
「この状況で冷静になるのは無理!」
「ですよね!!!!!」
なんかもう不安とか恐怖通り越して笑えてきた。
笑えるならなんとかなるだろうという謎の信念を胸に、生垣を乗り越える。