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汗をかいてでも、血反吐をはいてでも
花火
私は姉と約束をしたのに、鬼の首を切れない弱者だ。
姉は、鬼殺隊最高峰の柱。そんな姉の妹は、鬼の首すら切れない癸。周りが比べるのも当然だ。
だからこそ私は、自分だけの鬼殺の方法を模索した。『そんなの無駄だ』と皆が言う、後ろ向きに指を指される。姉ですら、私のことを本当の意味で、認めてくれていない。
そんな中でも必死に探して探して、ようやく藤の花の毒という武器を見つけたのに、きかない鬼もいて、それでも一体の鬼を鬼殺できたというのに、周りはそれを見向きもしない。
そんな日々が続いて、イライラしていた。だからだろうか、一人の患者に強くあったてしまった。名を冨岡義勇つまるところ、水柱だ。
「何で、あなたは病室でじっとしていられないんですか!怪我か直ってないのに鍛練とか馬鹿なんですか!」
「……怪我は直った」
「直ってないですよ!自分の怪我の具合もわからないなんて、それでも水柱ですか!」
「……。」
「何か言ったらどうですか」
本当にイライラする。何が、水柱だ。姉さんと、同じ柱だなんて信じられない。でも、この人は柱だ。そして私の階級は癸。そのとたん急に不味いのでは、と思った。でも、時すでに遅し。最悪、首が跳ねることも覚悟せねば。さぁと血の気が引く。
「……体調が悪いのか」
「違いますよ!本当にムカつきます!」
「……胡蝶妹、最近鬼殺成功したそうだな。喜んでいた」
「はぁ?誰がですか!」
「お前の……姉が」
「そんなの知ってますよ!なんですか、一般隊士から後ろ指を指されている私をそれで慰めたつもりで?水柱様はいいですね」
はぁ、怒りに身が包まれる。でも、本当は羨ましいのだ一般隊士から尊敬の目でみられる、柱が。姉さんも例外ではない。
「……お前これから時間は」
「そんなの聞いてどうするんですか?」
「稽古をつける」
稽古をつける?ちょっと待って、この人さらりとすごいこと言わなかったか、柱から稽古を受けられるなんて、その辺の隊士からしたら、喉からてから手が出るほど欲しいものではないか。そんなものを癸の鬼の首が切れない私に?
「私のことをからかっているんですか。そんなことをする前に、まずは傷を直した方がいいんじゃないですか」
あり得ない。信じられない姉さんですら信用してくれてないのに。
「どちらにしろ、明日にはここを出る。道場で」
それだけ言って、背中を向けてしまった。病室に戻る方向だ。その事に、嬉しく思い同時にどうしようと頭が埋め尽くされてしまった。このことが本当なら私は……
「暇だし。行くだけ行こうかな」
今日は機能回復訓練がなく道場は、自由に使っていいものとされているが、基本的には誰も使わない。それなのに、道場の真ん中で、正座をし目をつぶっている水柱がいた。
こうして見ると、無駄に整った顔ね。
「来たか」
「はい、胡蝶しのぶ参りました」
「……」
「……」
なにこの無言、本当に稽古をつけてくれるのよね。
「稽古をつけてくれるんですよね」
「花の呼吸を、すべて見せろ」
一応稽古はつけてくれるそうだ。それから木刀を渡され、花の呼吸の構えをする。大きく息を吸うそれを肺にいれる。花の呼吸は、高い身体能力が、必要な呼吸だ。そこから壱の型から順に見せる。すべて、見せ終わり一言。
「お前は、姉のようにはなれない」
そんなことを言われ、怒りに包まれる。
「そんなこと!もとからわかってるんですよ!私は姉さんのようにはなれない!強くきだたかく、だけど綺麗な、そんな人にはなれないって!」
しのぶの心の叫びが、道場に響く。
「姉さんはすごいです。首の切れない私なんかと違って、でもいつかなれるかな、肩を並べられるかなって思っていたのに!」
はぁはぁと息をつく。本当にそんなわかっていたのだ。でもなれるかもと心のそこでどこか思っていた。ダメだな私、真正面から言われて今までは、影で言われていたから、聞いて聞かないふりをしていた。
「俺が、言いたいのはそこではないお前が、花の呼吸が向いていないことを言いたいんだ」
「はぁ?それを言いたいなら最初からそういえばいいじゃなですか!でも、そういわないということは、そういうことでしょう」
男の目を見る、だが本当にそんなことをおもっていない目をしている。本当にそうなの?確かに前から花の呼吸は向いていないと思っていた。でも、だからどうすればいいのだろうか。
「お前だけの呼吸を作れ」
自分だけの呼吸?それがどれ程大変なことかわかっていっているのだろうか。でも、目と前にいるのは既に完成されていた水の呼吸に新しい拾壱ノ型を作った。柱だ重みが違う。
「私にできると思っていっているんですか?」
「できると思わなければ言わない」
この人は本当に私のことを信じてるんだ。新しい呼吸を作れる、できると本気でそう思っているのだ。嬉しさで心が包まれる、鬼殺隊士に認められた。たった一人されど、一人だ。そして、その一人は柱なのだ。
「あり、がとう、ござい……ます」
思わず、目から涙が出る。だが、これは嬉し涙だ。こんなに人に認められるのって嬉しいんだ。
その様子をじっと、凪いでいる目で見つめられていて、無言だが心は晴れ晴れとしていた。
しばらくして、涙が落ち着いてきて、ようやく男が口を開く。
「鬼に毒をいれるときどうしている」
「どうと言われても、刃で皮膚を切り毒をいれています」
「それだと、そのうち限界が来る」
端から聞いたら厳しい言葉だが、しのぶは嬉しかった。自分のことを信じているからこその、言葉なのだ。
「では、どうすれば?」
「そこらへんに座ってみていろ」
指示された通りにそこらへんに座り、じっと見る。瞬きの瞬間思わずその瞬きが目をガンと開くようになる。
「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き」
「突き技?」
「お前は、上半身には筋肉はあまりついていないみたいだが、下半身特に足には、筋肉がついているように見えた。鍛えれば踏み込みには期待できる」
いつそんなところを見て、と思った瞬間ふと頭によぎる。最初に花の呼吸を見せたときだろうか。花の呼吸は、高い身体能力が必要だから見極めるのならそこだろう。あの人涼しい顔をしながら、そんなところを見ていたのか。
そして足に筋肉がある。だからこその、突き技か。
「柱は、そんなにも視野が広く考えが柔軟なんですね」
「わたしは、首を切れるようになるでしょうか?」
「……お前は、首を切る必要がない、……だが鬼を殺せる毒を作ったすごい人だ。」
純粋な誉め言葉が、とても嬉しい。そして毒のことも認めてくれている。鬼殺隊の人たちは、首を切れなかったら後ろ指を指されるのに。
「無理をしてでも血反吐をはいてでも、鍛練しろ。お前には止めてくれる人がいる。そして、周りを頼れ」
「だったら、今から水柱様に稽古をつけてもらっていいですか?」
「わかった」
そこからは自分がなんで、この人に頼んだのだろうと思うほど地獄だった。
ひたすら走り少し休憩をしたら、突きの練習、そこから見とり稽古と、気がついたときには、そろそろ鬼が出てくる時間だった。
「今日はここまでだ」
そういい、道場を去っていった。本当に地獄だったが、おそらく成果は出るだろう。今にでも、鬼と会いたい気分だった。
「冨岡君」
「胡蝶か」
「ありがとうね、しのぶを見てくれて」
そこで、短く会話は終わった。確かにこのあととすぐにでも、カナエはここをでなければならないのだが、もう少し話せばよかったかもとすこし思っていた。
「姉さん、もう帰ってきたの?」
「そう!でもねここをもう少しで、でないといけないんだけどね」
「夜ご飯は?」
「ごめんなさい、今日もちょっと」
「わかった」
少しふて腐れている顔になっていて、思わずカナエは笑顔になる。
「私がいなくて寂しいの、ふふしのぶかわいいわねしのぶは」
「寂しくないし。ていうか……か、かわ、かわ」
「しのぶは、かわいいわよ、それじゃそろそろいくわね」
「ちょっと、まって姉さん、姉さんってば」
そんな平和なやり取りをしていた。
その夜、しのぶは運のいいことに鬼と出会った。なんの異能ももたない、普通の鬼であった。しのぶは素早く刃に毒を塗り突きをする。稽古の成果が出たのか呆気なく塵となった。まだ、花の呼吸が混ざっているその呼吸を悔しく思う。