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冬
下校の際に通る長い坂。
脇にはガードレールと枝のみの桜の木。
乾いて冷たい風に、青暗い空。
景色を再認識するのは現実逃避の一種なのだろうか。
でも、これでは逆効果だ。
冬は、少し色が薄い。
本当は違うはずだった。
一人きり、足音がとても鮮明に聴こえてくる。
想いの叶わなかった今の私に、足を止める勇気はない。
誰も悪くない。
仕方がない。
それでも行き場を失った想いは、有りもしない答えを求めている。
私はそれに応えられない。
足音に少し砂利が混じる。
冬は、仄かに静か。
少し前まで地面には枯れ葉が広がっていた。
虫に食べられたのだろう、今は無い。
彼と共に過ごして、随分経っていた。
足音も、硬くて味気がない。
段々暗くなって、風はとても強くなっていく。
冬は、寒い。
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本当に、寒い。
太陽の沈みが異様に速い気がする。
坂も先が見えない。
振り返る気にはならない。
気づけばガードレールも無い。
黒い枝には知らない花が咲いている。
雲が見えない。
太陽は沈んだ。
足音が大きい。
止まらない。
戻れない。
背筋に知らない感覚が伝っている。
二度と彼に会えないのか。
冬は、なくしものが多い。