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キミの名前を描きたい。9
君の笑顔の理由が俺でありますように。
重い足を引きずりながら、俺、海勢頭瞬月は教室へと続く階段を上っていた。
クラスに戻ったらどんなことを言われるだろう。
どんな目で見られるのだあろう。
小鳥遊にどう、思われるんだろう。
そんなどうしようもないことを考えていると、心が重くなり、今まで背負ってきた荷物が一つ、また一つと増えていく。
学年の教室が並ぶ階まで上がってきたとき、俺の教室、一年四組から人が出てきた。
なんでだろう、涙がこみ上げてくる。
手足が、震える。
全身に鳥肌が立つ。
その人は、小鳥遊だった。
小鳥遊は涙で目をいっぱいにしながらこちらに向かってきているようだった。
涙で、顔がぐちゃぐちゃになっている。
なんとか、してあげないと。
俺は気が付けば歩きだしていた。
なんて声をかけよう。
やっぱり、大丈夫とか、なのか。それとも、いつもどうりからかうのか。
でも、それは本当の俺じゃない。
小鳥遊には、小鳥遊だけでいいから、本当の俺を分かってほしい。本当の俺を見てほしい。本当の俺を……!
そんなことを考えていると、小鳥遊が横を通り過ぎるのが見えた。
俺は慌てて足を止める。
小鳥遊はそんな俺に気づいていないようで、俺は慌てて小鳥遊の手首をつかむ。
大事な時なのに、慌ててばっかだ。
小鳥遊の足が止まる。
「え……」
小鳥遊の第一声は驚いた声だった。
そりゃ、そうだよな。急にこんなことされるなんて思ってもいなかっただろうし。
小鳥遊が俺の方に振り向いた。
小鳥遊の涙に洗わされた大きな瞳が俺の心に突き刺さる。
全身に鳥肌が立って、世界から音が消える。
「なに……」
小鳥遊の一言で俺は目が覚めた。
口が震える。なにも、言えない。
いつも遠くから眺めていた彼女が目の前にいる。
多分、俺は今世界一幸せで世界一緊張しているだろう。
「用がないなら、私行くね。」
その言葉を聞いてハッとした。何か言えばよかった。なんて思った時には俺の手は小鳥遊に振り払われて、宙ぶらりんになっていた。
慌てて廊下を見渡す。
小鳥遊の背中が見えた。
とっさに俺は走り出していた。
俺はただ、小鳥遊に悲しい思いをさせたくないんだ。
もう、二度と、小鳥遊が泣いているを見たくない。
あの時、俺は小鳥遊を笑顔にするって決めたんだ。守るって、決めたんだ。
「まって!」
俺から発せられた声は俺の声だとは思えないくらいに掠れていた。
けれど、今はそんなこと気にしている場合じゃない。
「ちょっと、話したいことがあるんだ。」
そう言って二人きりの校舎裏に小鳥遊の手を引いて連れてきた。手が触れあっているのにも今は気にしてなどいられなかった。
「ごめん、急に。」
自分のした行動に反省点がいくつかあったので謝罪する。
「ううん、大丈夫。で、話って何。」
相変わらずいつもの俺に見せる青い顔をしていたが、俺は悲しくなどならなかった。
「なんで、泣いてたの。」
俺が一番気になったことを聞いた。すると、小鳥遊はもっと青い顔をして俺にこう言ったのだ。
「そんなこと聞いて、どうするの?また、どうせ、からかうんでしょ?ごめん、もう行くね……」
あぁ、やっぱりそう思われているのか。なら、本当の俺を教えないとな。
「君はまだ知らないだけなんだ。」
「なに、急に。」
なんでかはわからないけど、言葉がすらすらと出てくる。
「本当の……俺を。」
「……」
「分かってない、だけなんだ。」
「でも、海勢頭君は本当の性格を丸出しにしてるじゃん。思ったこと、全部軽く言っちゃうのが海勢頭君でしょ?」
それはもう一人の俺。悪魔がとりついた、他人に制限された俺。本当の俺は。
「嘘だよ……。」
「え……」
「そんなの、俺じゃない。」
「え、でも……いつもそうじゃん。」
もう、小鳥遊は分かってないな。
「俺は小鳥遊を笑顔にしたい。守りたい。」
「どういうこと……」
これからも、ずっと、一緒がいい。一緒にいたい。
君が感じる感動や喜びや幸せを、一緒に感じたい。
「あの事件から……」
「そのこと言わないで!もうやだ、嘘じゃん、私を守りたいだなんて。そんなことないでしょ。」
「分かってる。小鳥遊がこのことを言ったら怒ることも。とっくの前に分かり切ってるよ。」
「じゃあ、なんで……」
「俺は君から、一生分の勇気と生きる理由をくれたから。」
小鳥遊の目が大きく見開かれた。
「なにそれ。」
「一目惚れ、したんだ。君に、あの日、あの事件の日。」
本当に、そうだ。そうだったんだ。俺はあの日、君を大好きになった。ありのままの君を大好きになったんだ。
「……。」
「いままでの全ては、誤解だよ。本当の俺を、きっと誰も知らない。誰にも話さないでおこうと思ったけど、君がくれた勇気は君のために使いたかったから、俺は今からその誤解を全部解いてみせるよ。」
「そう、だったんだ。知らなかった。ごめん、今まで。」
なんで、君は謝るんだ。悪いのは本性を隠してた俺の方だろ。
「俺は……あの日見せた小鳥遊の全てが好きになったんだ。友達や人のために全力を尽くす君に。ありのままの君が俺は好きになった。あの事件が起こってから君はずっと猫を被ってただろう。俺はそれが嫌だった。だから、性格を変えてまでして、小鳥遊をありのままにさせたかったのに、それが間違いだったと気づいたころにはもう遅かった。」
自然と涙がこみ上げてくる。
小鳥遊への思いが一気に強くなる。
あぁ、やっぱり、好きだ。
キミの名前を描きたい。9を読んでくださりありがとうございます!
これからも、頑張って書いていくのでよろしくお願いします!