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君の好き
アゲハ
俺は、ある日を境に生きる意味を失った。
正確に言えば、生きる理由がなくなっただけだ。
だからといって、死のうとも思わなかった。
そこまでの気力もなかった。
何もしたくなかった。
ただ時間を潰すみたいに、
女と遊んで、酒を飲んで、
適当に金をもらって、生きていた。
前に一度、面倒な女と付き合ったことがある。
「他の女と遊んでるでしょ?」
図星だった。
「なら殺してもいいよね?」
笑えない。
「一緒に死のうよ」
そのとき、俺は逃げた。
別に、命が惜しかったわけじゃない。
ただ——
なんでそいつと一緒に死ななきゃいけないのか、
わからなかった。
それで、あいつに出会った。
どういう流れだったかは、あまり覚えてない。
気づいたら一緒にいて、
気づいたら付き合っていた。
どうせ、今までと同じだと思っていた。
その通りだった。
あいつは何も言わなかった。
俺が他の女と会ってることも、
わざと嫌いなタバコを吸ってることも、
多分、全部知ってた。
それでも、何も言わなかった。
ある日、いつもみたいに帰ったら、
玄関で押し倒された。
「私のこと、好き?」
震えていた。
でも、目は逸らさなかった。
「好きだよ、ちゃんと。」
そう答えた。
嘘じゃなかった。
「……なら、死んで」
「一緒に死のうよ」
少しだけ、驚いた。
あいつが、こんな顔をするとは思わなかったから。
「いいよ」
自然に出た。
考えたわけじゃない。
そのとき、少しだけわかった。
ああ、俺、こいつのこと、嫌いじゃなかったんだな、って。
首に触れていた手は、震えていた。
力は入っていなかった。
多分、あいつは本気じゃなかった。
結局、そのまま泣き疲れて眠っていた。
ベッドに運んで、寝かせる。
起こさないように、静かに。
少しだけ、顔を見た。
ひどい顔だった。
テーブルにあった紙に、一言だけ書いて家を後にした。
「好きだったよ」
なんで過去形にしたのかは、
自分でもよくわからない。
ただ、これ以上は、多分、無理だった。
外に出る。
朝の空気が、やけに軽い。
あいつは、多分また誰かをちゃんと好きになれる。
俺はもう、ああいうのは、無理だから。