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第七話「見守っていて」
「あー、よろしくお願いしますとは言ったけど、一緒に何をすれば良いかな?」
あの後、信介さんは私のお願いを快く受け入れてくれた。彼の懐の広さに感謝しつつ、でも今日はまだ用事があるらしいので、勉強は明日から、という事になった。そして今、私は家に帰ってきて、明日からどうしようと考えているわけだ。
「いきなりお願いしちゃったけど、具体的に何をどう勉強するか、とかは決めてないんだよなあ……」
明日、信介さんと会ったら話し合いたいなと思いつつ、私は、今この瞬間の自分にできる事はなんだろうと、少し考えてみた。
「うーん……。とりあえず、今日買った参考書を読んでみて、どこがどれくらい分からないか、ちょっと確認してみよう」
私は、紙袋が破けて、結局むき出し状態になって参考書達に目をやった。そして、とりあえず一番上にあった、数学の参考書を取った。とりあえずで選んだ、高校一年生用の参考書だった。
大きくて少し持ちづらいページをめくって、いくつかの問題を確認してみる。ランダムに、数式だったり解説を目に入れて、思い出そうとしてみたり、これは少し分かると揚々な気分になったり、あるいは、ほぼ分からないと頭を抱えてみたり。
「うわ、全く分からん……」
今までほぼやっていなかったから、当たり前と言えば当たり前なのだが、ほとんどの問題や方程式は、一切理解できなかった。何がどうなって数式や答えが出てくるのか、理解のりの字も浮かんでこない。自分ってここまで馬鹿だったっけ、と思った。
「どうしよう、全然できなさそう……。大丈夫かな……」
早速、心が折れかけそうな音がした。これらの問いが分かるようになる日は、果たして来るのだろうか。いや、もしかしたら来ないのかもしれない。そう思うと、不安で仕方が無くなる。ちょっとだけ、自信にひびが入っていくようだ。
「はぁ、でもでも! 北さんも協力してくれるし、何より私ならいける! 信じれば、きっといつか大丈夫になるはず!」
だがしかし、私はもう一人じゃない。信介さんが協力してくれる。それに、絶対と言うには頼りないかもしれないが、私ならきっと大丈夫だ。信じて頑張れば、いつか道は開けるし、いつか幸せになれる。今は、そのいつかに向けての準備期間に違いない。そうだと信じていたいのだ。だって、これほお母さんの教えだから。
お母さん、お父さんは、天国からこんな私を見守っていてくれているだろうか。だとしたら、天国の二人に、私は大丈夫だよと伝えられるように、頑張らなきゃいけない。
二人は、天国で元気にしているだろうか。もし本当に天へと登っているなら、神様とか他の人達と、きっと仲良くしているのだろう。そんな姿が想像できる。
お母さんとお父さんに会うのは、数十年後の話だろう。それまで、見守っている二人を、安心させていたい。だから私は、ここで踏ん張らなければいけない。
「よし、頑張るぞー!」
両親に思いを馳せながら、私は元気を出して立ち上がった。なおその時に、床が滑って、後ろに大きく転んだ。
「いだっ!」