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音と雫
「今まで騙しててごめん。実は私、人間じゃないの。」
「…え?」
驚いた。
あんなに今まで仲良く楽しく過ごしてきたし、どんなに悲しくても辛くても悲しみを共有して乗り越えてきた。
そんな彼女が人間じゃなかったなんて。
「…じゃあ君は一体何なんだい?」
「私は、人間に化けた竜なの。この世界の竜は人間に化けて安心させてから人間を食べなければならないの。この世界には私以外にもたくさんの竜がいるわ。みんなそうしてきたの。これが竜の生き方なのよ。私も最初はすぐ食べようと思ってた。でもあなたとの生活が楽しくてそんなことできなかった。あなたも知っている通り私はあなたに恋をしたの。」
「ああ、知ってるさ。僕もだよ。」
「愛している人を食べるなんてできなかった。でも竜は3年以内に人間を食べなければ死んでしまうの。そして今日はあなたと出会ってちょうど3年。あなたを食べなければいけないの。本当にごめんなさい。」
頭を下げる彼女を見て少ししてから彼は口を開いた。
「僕は君に食べられるのは構わないよ。君のためなら喜んで食べられるさ。」
「…本当?本当にいいの?私が食べたらあなたは死んでしまうのよ?」
「…いいさ。だって僕は君を愛しているんだもの。愛する人に食べられて死ぬだなんて僕は世界で一番幸せな男だよ。」
「あなた…」
泣き崩れる彼女を見る彼は少し笑っていた。
しばらくしてあたりに咀嚼音が響いた。
それと一緒に竜の鳴き声も。