公開中
『ねぇ、作家様。』
超短編
静かな部屋にカタカタとタッピングの音だけが鳴り響く
私は今日も小説を書いている。
こんな素人が書いた変な文字列でさえも評価されるとは
良い時代になったものだ
数年前に私は疲れて壊れて、家から出れなくなった
今は買い物程度なら出ることは出来るが
それでも誰かに見られているような気がして落ち着くことができない。
完全に壊れたのは学生時代。
先生も同級生も皆外行きの面を貼りつけて「ずっと待ってるよ」というが
そんなことを人間不信になった当時の私が信じられるわけなどない
家から一歩も出れなくなった私はふと、前から目をつけていた小説投稿サイトに登録をした
一から何もない状態で創作をするというのは難しいと思ったが、
なんとなく自分の体験を元にして書いてみると
少しずつ体から何かが抜けていくような気がした
最初は公開するつもりなんてなかったけど
初めて書いた作品を誰かに見てもらいたいという気持ちで
公開のチェックボックスにチェックを入れた
ネットは匿名性と多様性があって
こんな私でも居場所がある
きっと誰かが見てくれるだろうと小さな小さな希望を抱いて。
投稿して早数時間。
初めての感想をもらった。匿名の方からだった
正直に言って誰かに感想を貰うことなどほぼ諦めていたので
まず最初にきた感情は驚きだった
画面を消してはつけ、決してはつけを繰り返してようやく
それが現実であると理解することができた
その後自分でも気持ち悪いくらいの笑顔を顔に浮かべながら
新作の執筆に取り掛かった
そんなことを続けていたらもう7年も経ってしまったらしい
創作の中にいる自分は、自身の経験を当てているから重い設定だが
それでも、一般人の枠から落ちこぼれた私には
輝いているように見えた
小説を書いてる私は他のことをしている時より明るいと思っている。
新作告知のお知らせには日記も載せているが
もう何年も告知はしていない。
面倒臭くなって書くのを辞めてしまった
書いて保存してあった日記を読み返す。
「今日は海外文学を読みました。」
嘘、海外文学なんか読んだことない
「部屋の掃除をしました。」
嘘、何も片付けてない
「IQテストをしたら平均よりも高かった」
嘘、私のIQが平均より高いはずなんてない
嘘、嘘、嘘ばっかり。
ボロボロの自分を取り繕って外面だけ完璧に。
出来るだけ自分を良く見せたい、そんな引きこもり時代の感情が見てとれた
拝啓、昔の私
ねぇ、作家様。本当は落ちこぼれなのに周りだけ綺麗にしちゃって。
作家だなんて肩書きがついた途端に見栄をはって、
貴方は本当に嘘ばっかりだね
それしか守るための術が無かったんでしょうね。
私だってこんなに罵りたいわけじゃない
今はあの頃から少しでも変わったはずだけど
根の部分は何一つ変わっていないんでしょうね
私は私でしかない。
作家になったとて何も変わらないみたいですね
それでも書くのは好きだから今も続けてます
私はずっと、死ぬまで小説を書き続けるんでしょうね
公開のボタンを押し忘れるほどボケたとしても。
それで良かったんだと思う
残念だけど未練が出来ちゃったから。
こんなにボロボロになっても醜くても
まだズルズルと生きてます
どうか、許してねこんな私でも
やっと、受け入れてくれるところを、居場所を見つけたんだから。