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𝚂𝙰𝙼𝙴
理想郷から足を伸ばそうともしない枷が、いやに脆く見え始めていた。
久しく訪問した恐怖が開いた窓からやってきて、僕は助けを求めてグロックの手を強く握った。
ふと、掴んだ手がやけに痛くて視線を落とす。自分を抱きしめるほど握る手が、グロックの手ではなく、自分自身の左手が自分の右腕を強く掴み、爪が食い込むほど引きむしっている。
開かれた窓から吹き込む風が、布のかけられた鏡から布を落とし、僕が映ったような気がした。
再度、動悸が激しくなり信じたくも、愛したくもない恐怖に首が動いた。
鏡の中には感じなくなり、久しく思い起こされた恐怖と鏡の中にいないグロックの代わりに独り言を呟きながら、自分の首を絞め、涙を流して恍惚の表情を浮かべている自分一人の姿だけが映っている。
「……ああ、やっとこっちを見てくれたね、フォボス」
鏡の中の僕が、僕の意志とは無関係に、グロックの声で笑う。いや、正確には僕の声なのだ。
優しい恐怖が僕を呑み込み、生まれつきの性分すらも糧にして大きく膨らみ、グロックの皮を剥いで本性を現していく。
僕は、グロックは、恐怖を愛していた!
生まれつきの忌々しい恐怖を心の底から愛していた!
身体中を駆け巡って、気味の悪い蜘蛛の糸に絡み絡まれるように全身が襲う鳥肌を得た恐怖を、本当に、本当に、本当に、愛していた!
グロックが薄く歪み、姿を無に帰して僕は微笑んだ。
理想郷が崩壊する恐怖と、逃げ出せなかった枷が外れるような恐怖が襲う。
恐怖狂いの枷が外れる。
恐怖が再び、パニックを呼び起こして、形を創る。
もう一度。もう一度、恐ろしいと思える恐怖を愛せるものを繰り返す。
嗚呼、𝙿𝙷𝙾𝙱𝙾𝙼𝙰𝙽𝙸𝙰!嗚呼、𝙿𝙷𝙾𝙱𝙾𝙼𝙰𝙽𝙸𝙰!
死を幸と思えるほどの恐怖を!