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雲の上で
辺りには体の芯まで染みる冷たい空気と、無駄に暖かい太陽の光しか届かなかった。
そんな最後の希望さえも、もうすぐ消え去る。雲の中に隠れていく。
「そんなに死にたいの?」
後ろから声が聞こえた。
こんなに高い丘の上で、誰にも気づかれずにに朽ちていくはずだった。
何も知らない優しい人たちも、誰かの為に不幸を選んだ人も、私を助けようとした裏切り者も。
誰も彼も、もう居ない。
「どうせならみんなと一緒に死にたかった。みんなと一緒に人生を終わりにしたかった」
そうか。そうだった。みんなみんな、死んでしまったのだ。誰かが投げた、あの手榴弾で。
体がバラバラに飛び散って、誰かの泣き声しか聞こえない地獄絵図。
「私があの時気づいていれば…みんな、死ななかったはずなのに…私が…私が!」
崖の方へ、また一歩踏み出す。足元に薄く雲が泳ぐ。冷たい空気が張り付ける。
「君があの時みんなにそのことを伝えても、どうせみんなは信じなかっただろうね。君のせいじゃないよ、あっはは!」
【いつまでそうしているつもり?】
【両親を殺したのは貴方よ!彼らは貴方のことを愛していたのに。】
【何も悪くない人を見殺しにするなんて、なんで卑劣な…】
【彼女は酷い人だ。私が汚れ仕事を引き受けるしかないな】
【結局いつも俺がやる羽目になるんだ。】
【大丈夫か?手を掴んで!】
【あんなの全部嘘さ。あんたへも優しさも、全部】
「どうせなら私が殺してあげようか?」
誰の声かも分からない。そんなことを確かめる気力も湧かなかった。ただその言葉が、私の心に深く響く。
「死にたいのでしょう。だったら生きれば良いのに。そうすればいつか死ねるのに。
それがどうしても嫌なら、私が苦しまないように殺してあげる。貴方の為に。」
ああ、そうか…。生きれば、いいのか。
誰の為に死ぬのかも分からなくなってきた。
最後まで。ずっとずっと先の未来まで。
だったら、貴方の助けはいらないか。
「生きるのか…。そうするか。」
雲の上で、そう私は小さく呟いた。
私は、いつまで生きられるだろうか。
「え?だから、《《最後まで》》、よ。」
そこには誰もいなかった。